2015 Fiscal Year Research-status Report
18世紀ドイツ詩学の物語論的再解釈-模倣説の「情動」を物語の変容から捉える試み-
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26370384
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
福田 覚 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (40252407)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 独文学 / 18世紀 / 詩学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目に当たる2015年度は、文献収集を継続しつつ、理論的考察の新たな方向への展開を試みた。 文献収集は、夏季にベルリンの国立図書館で行い、デジタル化されていない一次資料を中心に複写した。さらに、利用者資格を継続することで、帰国後も随時、利用者向けに限定された電子化資料を入手することができた。 理論的考察は、I・J・ピューラを軸に研究を進めたため、前年度の崇高論から翻訳論へと展開することとなった。そのため、詩学の理論装置を物語論的に再解釈するよりも、詩学史の流れを物語論的に捉え返すことに重点が置かれることとなった。ピューラやランゲらのハレの言語協会とライプツィヒの言語協会との関係は、ライプツィヒとチューリッヒの間で論争が展開される前の段階を詩学の歴史においていかに記述するかということに示唆を与えてくれると考えられた。なかでも、ピューラがライプツィヒのゴットシェートのもとに『アエネーイス』の無韻による試訳を匿名で送ったことに端を発する一連の出来事は、後に様々な波紋を呼んでいく点だけでなく、その議論のあり方に関わる言説と関わらない言説を見ることで、理論装置の変容や関係を考える基盤となる。ゼッケンドルフが先鞭を付け、ゴットシェートも推奨したとされてその名と結びつけて語られた古代の作品の無韻による翻訳には、様々な記述的物語が想定されることが認識された。当時発行された言語協会の雑誌が古典の翻訳を重視することには、自国の文芸の水準を高める新旧論争的な物語がある。翻訳の善し悪しの判定は、「良き趣味」の解釈に関わり、背後には詩学の規則を誰が定めるのかという問題が広がる。ただし、諸学の相関という水準、詩学の反省的な議論の水準との関わりは比較的薄く、そうした水準からは言説の空間として距離があることが把握された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献収集は引き続き順調と言える。ベルリン国立図書館の電子化された古典的な資料は利用証があればドイツ国外からも利用可能で、ベルリンではそれ以外の一次資料の掘り起こしが中心となっていて効率的である。 理論的考察は、前年度もそうであったが、研究遂行前の想定とは違い、コンセプトワーク中心ではなく、むしろ豊富な文献資料を利用した確認作業から帰納的に作業仮説を組み立てる形になっている。前年度に修正した軌道の上を今年度の研究も進んできた形で、考察の場に関しても、事前に予定していた「悲劇の創作」ではなく、「古代の作品の翻訳」に目を向けた。悲劇のなかに具体的な物語の対立を見るのと、理論として悲劇における対立を情動論的に捉えることとの間にも段差があると思われて、悲劇における物語の関係論という問題設定は視野には入っているが、具体的な作品論からは距離を取る方向を向いている状況である。検討した翻訳の実践面での議論は、詩学の理論面の言説からは離れている印象で、詩学の基本概念を物語論的に再解釈するよりも詩学史記述の構成を物語論的に再検討するのに適していた。ハレやライプツィヒやチューリッヒに見られる地域差、それを土台にして展開する理論的な論争を見通すには、ピューラと『批判的論叢』との間の出来事はよい検討の素材と言えるが、翻訳の実践上の議論に集中しているため、レトリックの議論には通じる面があっても、人文主義諸学の相関、詩学の反省的な議論という水準に接続するには、さらに詩学史の構成要素となる別の素材による肉付けが必要である。 2015年度の研究成果は、現在論文の形にまとめているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度は崇高論、2015年度は翻訳論を具体的な議論の場として、詩学史を理解するための物語を考察した。崇高論から翻訳論への移行は、ピューラという人物を軸に見ていく時には、ゴットシェートを中心としたライプツィヒの言語協会との関わりを前景化させて有効であったが、詩学の理論的水準からは逆に実践論の方へと遠ざかることとなったように思われる。そのため、詩学史を構成する物語を考えつつも、同時に18世紀の詩学の理論装置そのものを物語論的に再解釈するには、理論的水準に接続していける議論素材の選択が重要となると思われる。崇高論、翻訳論からの延長上にあって情念論に関わるテーマを検討するように考えたい。 翻訳の問題を語ったピューラの言葉のなかには、受け手の感じ方を基準に翻訳を評価していると思われるものも見られ、ゴットシェートとはすでに異なる詩学的な地平にいると捉えられそうな箇所もあった。詩学の規則の根拠として自然模倣説を採るかどうか、情動論に接続して作用詩学的に判断する立場に移行していくのかどうか、といった今後の論点が翻訳論に見出されたので、そうした点から、自然模倣説の変化、情念の問題圏へ移行を物語論的に捉え直す地平へと歩を進めていきたい。 詩学史を構成する物語群の更新を掴むと同時に、詩学以外の学問からの影響、他の学問との連関において成立している情動論的なトピックに中心的に目配りして、情動論そのものの物語論的再解釈に分け入りたい。
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Causes of Carryover |
おおむね予定額に近い使用であったが、電子化資料による文献収集が比較的順調に進んだこともあり、文献収集のための費用を4万円ほど次年度に繰り越し、次年度に合わせて使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度も研究の進展状況を見ながら、執行を考えていきたい。次年度に繰り越した費用は、基本的には、図書購入に当てる予定である。
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Research Products
(1 results)