2014 Fiscal Year Research-status Report
デュレンマット作品におけるパラテクストの機能とその可能性
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26370388
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
増本 浩子 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (10199713)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 独文学 / 現代スイス文学 / パラテクスト / デュレンマット / 国際研究者交流(スイス) / 国際情報交換(ドイツ、台湾) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、スイス・ドイツ語圏の20世紀文学を代表する作家フリードリヒ・デュレンマットの作品を、パラテクストをも含みこんだ「複合体」としてとらえ直し、デュレンマット作品におけるテクストとパラテクストの関係、パラテクストのもつ機能、パラテクストによって広がる表現の可能性について明らかにすることである。26年度の課題は、戯曲や小説とともに発表されたパラテクストの在り方がどのように発展しているかを時系列に沿って検証することだった。研究の成果は次の通りである。 1)初期の短編小説には解説や注などはほとんどついていないが、戯曲には演出家や俳優に与えたドラマトゥルギー上の注釈、上演に際して観客に宛てて書いたメッセージなどが付属することが多く、その分量はデュレンマットが劇作家の地位を確立するにつれて多くなり、それと同時に小説にも後書きや解説が付き始めて、最終的にはパラテクストの分量が戯曲部分の分量を凌ぐ喜劇『加担者』(1972-73)に至る。 2)『加担者』までのパラテクストは、あくまでも読者や観客が文学テクストをよりよく理解するための補助的なテクストとして書かれているが、『加担者』ではむしろ逆に、文学テクスト(戯曲部分)はパラテクスト(後書きの部分)を書くきっかけを与えるものでしかない。『加担者』ではパラテクストは、質的にも量的にも戯曲を凌ぐほど重要なものとなっており、そこでは科学者の責任という戯曲のテーマを離れて、書くという行為そのもの、あるいは書いている自分とは何か、という問題について考察されている。 3)『加担者』の後書きのスタイル(構成や文体)は、最晩年の自伝風散文『素材』(1981/1990)にそのまま採用されており、『素材』は(それ以前のデュレンマット作品における文学テクストとパラテクストの分類から言えば)パラテクストからのみ成り立っている作品とみなすことも可能である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
デュレンマット作品において、パラテクストの在り方がどのように発展しているかを時系列に沿って検証する、という26年度の課題は、計画通りに進捗している。デュレンマット作品においてパラテクストの在り方が決定的に変化する『加担者』は、デュレンマット研究においては非常に重要な作品と位置付けられているにもかかわらず、日本ではまだ紹介されていないのだが、その翻訳を詳細な解説付きで出版する計画が整ったこと(2015年6月刊行予定)、研究成果の一部をスイスと台湾での国際集会で発表することができたことは、予想外の収穫だった。また、長期休暇を利用してスイスとドイツに滞在し、デュレンマット研究の第一人者であるペーター・ルスターホルツ教授(ベルン大学)、比較文学の専門家のゲオルク・ヴィッテ教授(ベルリン自由大学)らと意見交換を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度はデュレンマットの文学作品と、言語表現ではないパラテクストとしての絵画との関係について考察する。もともと画家志望だったデュレンマットは、文学作品と同じテーマやモチーフを扱った絵画を同時並行で制作することが多く、それらの絵は装丁や挿画として使われている。最も多くの挿画が使われているのは短編小説『ミノタウロス』(1985)で、この作品が発表されたのが、パラテクストが圧倒的な存在感をもつようになった『加担者』以後のことである点も注目に値する。そこで、27年度には特に『ミノタウロス』に焦点を当てながら、文学テクストとパラテクストとしての絵画との相互作用について考察する。分析にあたっては、デュレンマット・センター(スイス、ヌシャテル)に所蔵されているデュレンマットの絵画コレクションを適宜参照する。 28年度は再び言語的テクストの分析に戻り、「複合体」としてのデュレンマット作品の在り方を最も典型的に示している『加担者』を詳しく分析する。分析にはスイス国立図書館に収められている遺稿を適宜参照する。 29年度には、それまでの分析を踏まえた上で、パラテクストの存在が作家に提供する表現の可能性とは何かについてメタレベルで考察する。 各年度の研究成果については、学会や国際研究集会などで発表し、論文にもまとめる。
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Causes of Carryover |
当初はノートパソコンを購入予定であったが、手元にあるノートパソコンがまだ使用可能だったので、次年度以降に購入することに計画変更したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
デュレンマットに関する研究書やパラテクストに関する研究書などの書籍の購入、プリンターカートリッジ等のパソコン関連消耗品の購入と、スイスにあるデュレンマット・センターでの調査と資料収集およびドイツの研究者との意見交換のための海外旅費に使用する。
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