2015 Fiscal Year Research-status Report
デュレンマット作品におけるパラテクストの機能とその可能性
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26370388
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
増本 浩子 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (10199713)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ドイツ語圏文学 / 現代スイス文学 / パラテクスト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ドイツ語圏スイスの20世紀文学を代表する作家フリードリヒ・デュレンマットの作品を、パラテクストをも含み込んだ「複合体」としてとらえ直し、デュレンマット作品におけるテクストとパラテクストの関係、パラテクストのもつ機能、パラテクストによって広がる表現の可能性について明らかにすることである。27年度の課題はデュレンマットの文学作品と、(言語表現ではないパラテクストとしての)絵画との関係について、特に短編小説『ミノタウロス』(1984/85)とミノタウロスをテーマに描かれた絵画を中心にして考察することだった。研究の成果は次の通りである。 1)もともと画家志望だったデュレンマットにとって、絵画は言語と同じくらい重要な表現手段だった。絵画を描くことの意味についてはデュレンマット自身が『自分の描いた絵とデッサンについての個人的な注釈』(1978)というエッセイを書き残している。このエッセイの中でデュレンマットは、絵画は文学作品を補完するものではあるが、単なる挿絵ではないことを強調し、「我々の世界は言語だけではとらえられない」と主張している。 2)デュレンマットにとって世界は「顔のない」抽象的なものであり、その抽象的な世界に具体的なイメージを与えるものが絵画(すなわちBild=イメージ)であり、それはギリシア神話に登場する「迷宮」である。 3)「迷宮」はミノタウロスから見た世界である。短編小説『ミノタウロス』では、ミノタウロスは自分が「迷宮」に閉じ込められていることも、自己と他者の区別も知らず、突然目の前に現れた他者を自覚のないまま殺してしまう。 4)絵画ではミノタウロスはしばしば「世界史」という名の大量殺人を犯す怪物として描かれている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
短編小説『ミノタウロス』と、ミノタウロスをテーマとする絵画との比較、相互作用についての分析は計画通りに行うことができたが、デュレンマットの作品においてパラテクストの在り方が決定的に変化する『加担者』(1973/1976)の翻訳(本邦初訳)を詳細な解説付きで出版することができた他は、アウトプット(学会発表や論文の刊行)がやや少ないため。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度はまず、27年度までの研究成果の発表に努める。28年度の新たな課題としては、再び言語テクストの分析に戻り、パラテクストをも含み込んだ「複合体」としてのデュレンマット作品の在り方を最も典型的に示している『加担者』を、遺稿も考慮に入れつつ詳しく分析する。そのためにスイス国立図書館で資料収集と遺稿の調査を行うが、その際ペーター・ルスターホルツ教授(ベルン大学)とウルリヒ・ヴェーバー博士(スイス国立図書館)の協力を得る。研究成果は研究会・学会等で報告し、論文にまとめる。
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Causes of Carryover |
本来は資料収集と意見交換のために2~3週間程度スイスとドイツに出張する予定だったが、平成27年4月から研究科長になったために長期間の出張が難しくなり、予定していた旅費に残金が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
デュレンマットに関する研究書やパラテクストに関する研究書などの書籍の購入、プリンターカートリッジ等のパソコン関連消耗品の購入と、スイス国立図書館での調査と資料収集およびドイツの研究者との意見交換のための海外旅費に使用する。長期間の海外滞在が難しいようなら数回に分けて出張できるよう、周到な出張計画を立てる。
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Research Products
(3 results)