2016 Fiscal Year Research-status Report
デュレンマット作品におけるパラテクストの機能とその可能性
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26370388
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
増本 浩子 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (10199713)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ドイツ語圏文学 / 現代スイス文学 / パラテクスト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ドイツ語圏スイスの20世紀文学を代表する作家フリードリヒ・デュレンマットの作品を、パラテクストをも含み込んだ「複合体」としてとらえ直し、デュレンマット作品におけるテクストとパラテクストの関係、パラテクストのもつ機能、パラテクストによって広がる表現の可能性について明らかにすることである。28年度の課題は、27年度までの研究成果(特に、絵画というパラテクストを考慮に入れた短編小説『ミノタウロス』の分析)の発表に努めることと、「複合体」としてのデュレンマット作品の在り方を最も典型的に示している戯曲『加担者』とその後書きを詳しく分析することだった。研究の成果は次の通りである。 1)「複合体」としての『加担者』は、晩年の自伝的散文『素材』の形式と内容に決定的な影響を与えた。 2)『素材』で語られているように、「迷宮」と「塔の建設」はデュレンマットの作家人生を貫く最も重要な文学的素材である。ギリシア神話に登場する「迷宮」からデュレンマットが連想し、考え、表現したことは実に多岐にわたっており、これらを素材として文学作品のみならず絵画も多数創作されている。 3)デュレンマットにおいて「迷宮」は、人間に世界を正しく認識することは可能かという問題と深く結びついている。この問いはさらに、人間は自分自身を正しく認識することが可能かという問題につながっている。 4)「迷宮」という素材を扱ったものとして、『ミノタウロス』は映画台本『ミダス』および中編小説『依頼』と関連づけて考えることができる。ミノタウロスと同じくギリシア神話に登場する人物ミダスは、デュレンマットが世界や現実を言語や映像その他のメディアを使って描くことが可能かどうかという問題を扱うために導入したモチーフである。『依頼』においてもビデオというメディアの客観性が問題になっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「迷宮」という観点から短編小説『ミノタウロス』を映画台本『ミダス』および中編小説『依頼』と関連させて分析した論文を執筆することができた。この論文は29年度中に刊行される予定である。また、パラテクストをも含み込んだ「複合体」としての『加担者』の分析については、29年7月にドイツで開催される国際シンポジウムで発表することが決まっている。
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Strategy for Future Research Activity |
デュレンマットにとって非常に重要だったもうひとつの文学的素材「塔の建設」について、パラテクストを考慮に入れながら詳しく分析する。また、これまで行ってきた具体的なテクストとパラテクストの分析を踏まえた上で、パラテクストの存在が作家に提供する表現の可能性とは何かについてメタレベルで考察する。デュレンマットは意識的にパラテクストを利用するタイプの作家だったが、テクストに加えてパラテクストを配することによってどのような相互作用が生じ、何が変わるのか、といった問題について考える。その際、ペーター・ルスターホルツ教授(ベルン大学)、モニカ・シュミッツ=エマンス教授(ボッフム大学)、ゲオルク・ヴィッテ教授(ベルリン自由大学)らのアドヴァイスを仰ぎながら研究を進める。成果は学会や研究会で報告し、論文にもまとめる。
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Causes of Carryover |
旅費(海外)が当初予定していたよりも安くなったため。7千円弱の金額なので、誤差の範囲内と考える。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
成果発表のために海外に出かける予定があるので、その旅費に繰り入れる。
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Research Products
(3 results)