2014 Fiscal Year Research-status Report
複数形の前衛観へ:未来派とゲラルド・マローネ関連資料研究
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26370391
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
土肥 秀行 立命館大学, 文学部, 准教授 (40334271)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 前衛 / 未来派 / 短詩形 / ナポリ / イタリア |
Outline of Annual Research Achievements |
およそ100年前の前衛の横断性と同時性を年頭におきながらも、地域ごとのヴァリエーションをみていく作業にとりかかっている。既に文化的に後退しつつあった地中海地域が、最後の光を見せる、その様をとらえることも研究の目的としていたが、2014年度ナポリ調査ではまさに南の豊穣を実感する結果を得た。第一次大戦勃発から1世紀を記念してはじまった事業「文人と戦争」の責任者のひとりローマ大学のベルナルディーニ教授にナポリ国立図書館で話を聞く機会を得て、その事業の一翼を担い2015か2016年度にシンポジウムで発表することになった。この共同研究は、ちょうど当研究が具体的な目的としている、各地のマローネ文庫間の相互参照を可能にする目録作成にむけプラス要因となる。なんとなれば当研究従事者・土肥の作業についての了解が、ローマにあるマローネ文庫の責任者でもあるベルナルディーニ教授より、それまで教授と難しい関係にあったナポリにあるマローネ文庫の場において、取り付けられたからである。ローマとナポリの資料館の間の風通しのよい共同作業がようやく可能となり、当研究従事者も関われるような状況になってきた。その第一歩となるのが論文Harukichi Shimoi e l’avanguardia napoletana(下位春吉とナポリの前衛)である。イタリアの国立機関である文化会館経由で世界に発信されているので、研究協力を求めているナポリ国立図書館のさらなる信用を得るのに益した。さらに9月の招待講演Harukichi Shimoi, l’amico giapponese di Gherardo Marone(下位春吉、ゲラルド・マローネの日本の友人)では、モンテ・サン・ジャコモ村に埋もれているマローネ文庫の有用性をうったえることに成功している。初年度は主に研究活動の地盤を固め、協働すべき機関と研究者との連帯を強めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に計画していた資料収集と現地調査のうち、近年に発表された雑誌論文の収集は細かく行えた。2014年8月のボローニャ大学イタリア文学科図書館とアルキジンナジオ図書館での短くも内容の濃い資料収集活動において、20世紀はじめの貴重な印刷本を参照し、なかでも下位春吉からムッソリーニへの寄贈本の発見により、ファシズムと前衛を結ぶルートについての新たな示唆を得た。かつての指導教官であるボローニャ大学のニーヴァ・ロレンツィーニ教授から、以前より議論してきた短詩形と未来派の親和性について貴重なコメントをいただいた。ボローニャに先立つバルセロナでの調査では、イタリア未来派以前の「未来派」を発見し、詩人アロマルという、ローカルな前衛の新たな鉱脈を探し得た。通っていたバルセロナのカタルーニャ国立図書館はアロマルについての最大の研究拠点であった。マローネ文庫の最後の難関として残るブエノス・アイレス所蔵のもの(所在不明)について、協力者に資料提供をもとめるなか、チェントゥレッリ氏の公刊前の博士論文が入手できたのは幸運であった。これで2015年秋に予定されるブエノス・アイレス調査に道が拓けた。2015年2月のナポリ大学図書館での調査では、地方新聞il mattinoの、大戦後期のものを1917-18年に断続的に確認し、文化や文学についての記事は少ないものの、戦地のルポは歓迎されていたことがわかった。そうした中に前衛の作家たちがいたのである。引き続き戦間期の日本の新聞のページに、第一次大戦についての記事を探ってみたところ、イタリアの前衛が政治とセットになって取り上げられていたことを確認した。こうした作業は、研究発表「1935年の日伊関係と文学交流」と論文「下位春吉とは何者か/一九三五年の現代日本詩撰-「ファシズム文学」とは」に結実している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究活動2年目は、現地調査、そして資料分析とアウトプットに向かっていく。まず2015年9月にはブエノス・アイレス大学イタリア文学科(マローネが教鞭を執っていた学科)とダンテ協会ブエノス・アイレス支部で初の調査を行う。チェントゥレッリ氏の調査によれば未整理で段ボールに入ったままとのことであるが、印刷本だけなのか、あるいはナポリ蔵の書類から推測されるように手稿も含まれるのか、直接確認するしか手はない。続いて2016年3月には再びナポリ国立図書館に赴き、国際シンポジウムの打ち合わせをする。実現すれば3箇所に分かれるマローネ文庫関連の人々が一同に会す機会となるだろう。場所はやはりナポリ国立図書館となる予定である。このシンポジウムは、期せずして、当研究従事者が計画していたボローニャでの会議に替わりうるものである。また幸運なことに、詩人ウンガレッティからマローネに大戦中に送られたLettere dal fronte『前線からの手紙』が、「文人と戦争」叢書として1978年の初版から約30年ぶりに再刊される(2015年の予定)。そこには新たにローマ大学ベルナルディーニ教授の注がつく。ローマとナポリの機関の協力により可能となったこの出版が、2都市間の長年のしこりを取り去る効果が期待できる。そうすればこの出版を受けて、当研究従事者は、伊語初版に先立って1975年に出ていたコカーロ(ブエノス・アイレスのマローネ財団の代表)編のスペイン語版Ungaretti soldado『兵士ウンガレッティ』との異同を追加の補遺のかたちで出版できるだろう。こうした研究者間での成果のやりとりを進めていくことで、マローネ文庫の意義への一般の理解が進み、盛んに行われている第一次大戦再考へのフィードバックもなされると信じる。
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Causes of Carryover |
理由は、現地調査、そして資料分析とアウトプットに向かうためである。まず2015年9月にはブエノス・アイレス大学イタリア文学科とダンテ協会ブエノス・アイレス支部で初の調査を行う。続いて2016年3月には再びナポリ国立図書館に赴き、ナポリとローマのマローネ文庫の責任者らと国際シンポジウムの打ち合わせをする。詩人ウンガレッティからマローネに大戦中に送られたLettere dal fronte『前線からの手紙』が、ベルナルディーニ教授監修のもと、「文人と戦争」叢書として1978年の初版から約30年ぶりにイタリアで再刊されるが、伊語初版に先立って1975年に出ていたコカーロ編のスペイン語版Ungaretti soldado『兵士ウンガレッティ』との異同を追加の補遺のかたちで出版するよう計画している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年9月ブエノス・アイレス出張費(1週間から10日間ほど)と、2016年3月ナポリ出張費(1週間から10日間ほど)がまず大きな支出として挙げられる。それからウンガレッティ『前線からの手紙』新版への補遺を発表するために伊語原稿のネイティブチェックが欠かせない(最低でも2度はお願いする予定)。一方で、第一次大戦後のイタリアそして日本での戦闘的前衛の連帯を知るための伊語資料(古本が主)と和文資料(古本もしくはコピー)を新たに集めなければならない。これは2015か2016年度に予定されるナポリの国際シンポジウムでの発表(そして後に編まれる報告集に載せるための論文作成)に向けた研究のベースとなる。2度の現地調査での効率を上げるために事前の資料収集を可能な限り行いたい(現地への資料請求を通して)。
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Research Products
(9 results)