2015 Fiscal Year Research-status Report
複数形の前衛観へ:未来派とゲラルド・マローネ関連資料研究
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26370391
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
土肥 秀行 立命館大学, 文学部, 准教授 (40334271)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 前衛 / 未来派 / ナポリ / 短詩 / イタリア / アルゼンチン |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までのイタリア(ローマ大学イタリア文学科「20世紀資料館」、ナポリ国立図書館手稿部門)での調査に加え、いよいよ残る3箇所目のブエノスアイレスに眠る資料の調査へとむかった。事前の情報蒐集の段階で、ローマ大学博士課程のチェントゥレッリ氏、シエナ外国人大学のアレハンドロ・パタット教授の先行研究と助言は実に示唆的であった。いまから半世紀以上前、1962年に亡くなったゲラルド・マローネが遺した資料(特に書簡と手稿)は、ブエノスアイレス大学とダンテ協会ブエノスアイレス支部に収められているはずなのだが、最も近くまで迫った上記2氏でも、結局その存在は確認できていない。2015/8/30-9/5の一週間のブエノスアイレスの滞在中、ダンテ協会で講演会を催し、マローネを紹介しながら、情報提供を呼びかけたが、あまり有力なものは寄せられなかった。1940年生の甥のフアン・マローネ氏へのインタビューでは、未亡人デリア(1970年代に亡くなる)がいかに遺品を処分したかが問題となったが、確認にまでは至らなかった。ただし現地調査で得られた証言や資料は、紀要論文「ゲラルド・マローネとナポリの未来派」(『イタリア語イタリア文学 』 (8): 95-117)に反映されている。未見であっても、ブエノスアイレスになにがあるはずなのか、大凡の見当はつくまでになっている。次の調査に役立つ経験となった。続く12月のローマ近郊でのシンポジウムでは20世紀前衛文学の専門家と意見交換を行うことができた。軸は詩人パゾリーニに置かれていたが、彼に先立つ歴史的前衛の世代についての研究者が集まっていたのである。年末には1960年代の新前衛とも関わりの深い小説家ロベルト・カラッソ氏と講演会を開いた。その後、カラッソ氏の邦訳『カドモスとアルモニアの結婚』の書評(『図書新聞』2016年3月28日号)にて、前衛の問題点について触れた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
二年目までに計画していた資料収集、現地調査、研究発表は、予定通りの結果を得ている。全研究期間内に、3カ所(ローマ、ナポリ、ブエノスアイレス)の「マローネ文庫」の資料を網羅的に調査するのを主たる目標とし、すでにそれを成し遂げ、2016年2月に発表した論文「ゲラルド・マローネとナポリの未来派」に報告をまとめることができた。文学史上のマローネの最大の貢献が、彼が築いた20世紀前半の文人と芸術家間の連携であるとうったえる内容となった。研究ネットワークの構築の面では、これまでの二年間で、ローマ大学のベルナルディーニ教授とタッデイ講師、ナポリのスオルオルソラ・ベニンカーザ大学のガランピ教授といった第一線の研究者から、司書の方々まで、貴重な情報と分析を寄せてもらえるまで連携を深めるまでできている。調査対象であるマローネの遺品を継承し、積極的に紹介に努めるゲラルド・マローネjr氏や、ブエノスアイレスでの頼みの綱といっていい遺族のフアン・マローネ氏の惜しみない協力も、調査にとって欠かせない要素となった。マローネが書くスペイン語、さらにはアルゼンチンのスペイン語にまで強くなれたのは研究の副産物としてだけでなく、調査上の強みとなった。アウトプットとしての研究発表の場をブエノスアイレス(2015/9/2)、東京(2015/10/30)、イタリア(2015/12/4)と、うまく調査地に対応するようもつことができたのは幸いであった。その史料を収める場や人々に対し、いくらかでも「おかえし」をすることができたからである。
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Strategy for Future Research Activity |
三年目は当研究が掲げる、ゲラルド・マローネ関連資料データの統合を目指すが、できればその発表をナポリで行いたいと考える。三カ所に渡る保管先の核となるのは、やはりナポリの国立図書館であるからだ。ローマのベルナルディーニ教授が校訂した、マローネとウンガレッティの往復書簡集Lettere dal fronte『前線からの手紙』が、2015年上半期、「文人と戦争」叢書として1978年の初版から約30年ぶりに再刊されたのを好機とし、2016年はぜひ詩人ウンガレッティからマローネへ関心の度合いが高まるようはたらきかけていきたい。第一線の書き手というよりは、雑誌の編集や翻訳などによって、文学界に裏手から貢献する存在がさらに認められるべきと考えるためだ。ウンガレッティの処女詩集『埋もれた港』が、マローネの助力で発表されてからちょうど一世紀の記念の年に、マローネ像をさらに掘り下げる場を、アーカイブの恩恵にあずかってきた身として、提案していくであろう。またそこでの発表は、これまでの発表とあわせてイタリアで書籍として出版したいと考える。というのも、そういった研究がこれまで残されていなかったために一次資料がうもれていく結果となってきたからである。特にブエノスアイレスではそのように感じ、継続的な研究と発表が、資料の保存には欠かせないのは明白である。国と都市をこえた研究者間の連携も必要である。比較的最近の時代を研究する者同士は、特に「縄張り争い」に陥りやすく、その関係をほぐすことは、外国人研究者にはうってつけの役割であろう。
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Causes of Carryover |
三年目に研究費使用が生じるのは、現地調査をうけた資料分析とアウトプット(口頭での発表と出版)の完遂を目標とするためである。まず2016年9月には、ナポリ国立図書館で、マローネとウンガレッティの記念講演会(複数の研究者の発表からなる)が開けるよう調整を進めている。できればイタリア語原稿を小冊子としてでも出版し、日本語版は『イタリア学会誌』や大学紀要に載せていく。これは2011年に発表し、注目度の高かった論文「初期ウンガレッティと20世紀の短詩形」(『イタリア学会誌』61号)への重要な補遺ともなり、一般の現代イタリア文学研究に資するところが少なくない。またイタリアとアルゼンチン両国で活躍した文人知識人マローネという存在が、さらには政治評論家や教育者としても有効であったことを、今後のマローネ再評価の下地になりうるため、さらなる研究活動を可能とする一歩となるよう、研究最終年度でうったえておきたい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年8月から9月にかけてローマとナポリ出張費(2週間ほど)と、2017年2月ナポリ出張費(1週間ほど)が、支出のメインとなろう。これらの出張で行う発表のための原稿のネイティブチェック(複数回)が必要となる。出版に関しても、費用協力のために支出を行う。一方、マローネ周辺にいた下位春吉関連資料、さらには、いわゆるベルエポックの時代にパリで暮らした松尾邦之助関連資料(翻訳と美術評論)を、戦前から戦後まで日本で公にされてきたもの中心に集めていきたい。デビューから一世紀となるウンガレッティ研究も多く発表されつつあり、なるべく多くを集めることになっている。これはマローネのアーカイブ研究の傍流となる研究の基礎と発展形をまとめていく際に欠かせない資料となる。
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Research Products
(10 results)
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[Book] イタリア文化 55のキーワード (世界文化シリーズ)2015
Author(s)
和田忠彦編、 横田さやか、山崎 彩、小久保真理恵、柴田瑞枝、石田美緒、石田聖子、花本知子、越前美貴子、橋本勝雄、住 岳夫、高田和広、鯖江秀樹、林 直美、栗原俊秀
Total Pages
304(2-7,36-47,52-55,144-147,174-175,200-207,29-39)
Publisher
ミネルヴァ書房
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