2015 Fiscal Year Research-status Report
I.F.アルノルト作品のゴシック小説的特徴とドイツ・ロマン主義への影響
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26370394
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
亀井 伸治 中央大学, 経済学部, 准教授 (10329039)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ドイツ文学 / 盗賊小説 / 恐怖小説 / 十八世紀末 / フリードリヒ・シラー / サド侯爵 / 啓蒙主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年7月には、二松学舎大学で開催の日本比較文学会東京支部例会で、本研究の対象作家であるイグナーツ・フェルディナント・アルノルトの二つの小説『モール伯爵家』 (1802)と『黒いヨーナス』 (1805) を対象にした研究発表を行った。十八世紀末のドイツ語圏では, 盗賊を主人公にした〈盗賊小説〉が数多く出版され人気を博していたが、上記のアルノルト作品もこの流行に乗って書かれた。前者は、フリードリヒ・シラーの高名な戯曲『群盗』を脚色して通俗小説化した作品であり、後者は、当時実在した盗賊の告白という形式による「犯罪実録もの」である。語りのタイプこそ違え、この二作はどちらも、極端な思想を主張したり、余りにも異常な犯罪を行う盗賊が登場する点において、同ジャンルの中でも際立って特徴的である。特に『黒いヨーナス』の残酷描写は常軌を逸している。発表では、こうした特異な性格について、十八世紀末ドイツにおけるサド侯爵作品の受容との関係などによって論じた。また、読者の卑俗な嗜好の過激化がジャンル作品の質の低落を容易く招来するという問題が, すでにマスメディア時代の初期であるこの時代から露骨に現れている点についても考察した。 アルノルトが 1800年に上梓した二つの〈恐怖小説〉『血の染みのある肖像画』と『分身のいるウルスラ会修道女』についての論考は、昨年中に原稿を作成し、中央大学人文科学研究所に提出してあったが、これは「1800年の幻想ミステリ」の題名で、平成27年10月発行の上記研究所紀要「人文研紀要」第82号に掲載された。ここでは、啓蒙主義時代の末期という時代背景、ゴシック小説的特徴、探偵小説との比較などの観点から上記二作品を分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度も昨年度に引き続き、研究に必要な資料(一次文献として、アルノルト作品のテクストや彼と同時代の各種テクスト、および、二次文献として、十八世紀末ドイツの文学や社会に関する新しい研究論文)を多数入手できた。そしてそれらを用い、「研究実績の概要」に記した通り、日本比較文学会東京支部例会での研究発表と、中央大学人文科学研究所の「人文研紀要」への論文掲載を行うことができた。 また、上記論文で考察の対象にしたアルノルトの二作品、すなわち『血の染みのある肖像画』と『分身のいるウルスラ会修道女』の翻訳は、前者の全訳をほぼ終え、後者に取りかかったところである。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年末より日本比較文学会東京支部例会での発表原稿をもとにした論文の作成を進めていたが、これは、中央大学人文科学研究所に提出され、平成28年10月刊行予定の次号「人文研紀要」に掲載される予定である。 まだ入手できていないアルノルトの主要作品、その中でも、とりわけ『墓の上での婚礼の接吻, あるいはマリーエンガルテン教会での真夜中の結婚』Der Brautkuss auf dem Grabe, oder die Trauung um Mitternacht in der Kirche zu Mariengarten (1801) のテクストを入手して考察したい。中央大学図書館を通じてドイツの大学図書館のマイクロフィシュを取り寄せられたらと考えている。 アルノルト作品の和訳に関しては、何とかして年内に『分身のいるウルスラ会修道女』を全訳し、すでにひと通り訳し終わっている『血の染みのある肖像画』の翻訳と併せて、来年(平成29年)中には出版に漕ぎ着けたい。
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Causes of Carryover |
研究資料として平成27年度中の平成28年2月から3月に注文していた古書や文献の一部について、それらのカード決済による支払いが次年度(平成28年4月以降)にずれ込んだため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度中に注文したが納品と支払いが平成28年度になってしまった研究資料の支払い残額に充当する。
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Research Products
(2 results)