2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370395
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
初見 基 日本大学, 文理学部, 教授 (90198771)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ドイツ / ドイツ文学 / 戦後 / ドイツ戦後文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,ナチ支配という特殊な時代を経た後の第二次大戦後のドイツ文化,とりわけ「加害の罪」および「世界の冷戦構造」という外的条件に規定された強い社会意識と結びつき,独特の発展を遂げた1960年代以降の西ドイツにおける政治文化の状況を中心に据えて,そのような「戦後」意識が現在のドイツ文化のなかでどのように継続・変容されているかを,その正負両面にわたって検討・分析することを目的とする。またそれと同時に,20世紀ヨーロッパ文化を考察する際に無視しえない第一次大戦前後の文化状況をも対比的に見ることを通じて,20世紀における「戦後の思想」とでも呼びうる相を見定めることをも目指している。とりわけ近い「過去」に向けられた「記憶」「追想」についての理論的検討が1920年代から30年代頃にはじまり,そしてそれが第二次大戦後,ことに1980年代半ば以降にさらに深化されていった過程について,個別の思想家・論者たちにおける議論を追うと同時に,その背後の言説空間にも着目した検討がなされる。 その際に重点が置かれるのは,文化と社会との相互連関,相互作用のあり方になる。文化は社会によって規定されてはいるものの,また人の手によって作り出された文化が社会に一定の方向性を与えもする,その関係を具体的に分析することが,作業の中心となる。 本研究における問題意識の根底には,ドイツの場合と対比的に日本における戦後意識のあり方を位置づけようという関心がある。分析対象は,文化領域全般を射程に入れながらも,個人の能力には限界もあるため,当面は文学作品および知識人たちの社会的発言を扱うにとどまる。 本研究は,申請者が過去約30年にわたって継続している20-21 世紀ドイツ精神史研究の一環に位置する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初からの計画内に「第一次世界大戦」における「戦後」の文化状況についての考察は,「第二次大戦後」を考察するうえでの重要な前提要因として含まれていたものの,さほど詳細なかたちでは構想されていなかった。それに対して2014年度に実際に遂行された研究においては,世紀末から1910年代をも視野にいれつつ,第一次大戦後の文化変遷の流れ,とりわけ表現主義芸術の登場とその帰趨を追うことに多くの時間が費やされた。その意味では開始以前に思い描かれていた研究遂行に若干の修正が施されているとの見方もできるとはいえ,これは第一次世界大戦後の「記憶」をめぐる議論を扱ううえで重要な基盤となるため,むしろこの作業によって問題意識と研究の枠を深化させることができたものと考える。 資料収集に関しては,ルーティーンワークとして事前に想定していたとおりにほぼ進行しているため,問題は感じられない。 研究成果の発表は,1914年度内にあって論文のかたちでは,20世紀文化を扱う前提となる〈モデルネ〉について考察した1篇を完成するにとどまったものの,その他に関連書籍についての3篇の書評を学会誌等に記したほか,表現主義が第一次大戦後に何を残したかを扱ったものと,近代化・都市化の過程のなかで前景に出てきた〈物象化〉を20世紀思想のなかで位置づけて再考したものと,2本の論文執筆が進行中であり,これは2015年度内に発表できる見込みである。 さらに関連著作の翻訳作業もつつがなく進行しており,研究全般を見渡すならおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度は,研究の基礎となる20世紀前半に関する検討がおおきな比重を占めたが,2015年度においては,一方で,それを継続してよりいっそう深めてゆくと同時に,他方で,本来の対象である1945年以降の政治文化の検討に重点を移す。とりわけ「記憶文化」が西ドイツおよび統一ドイツの社会に根づいていく過程をつぶさに追う作業を進める。その際に,当面は具体的な文学作品を対象とするよりも,理論的な局面について地固めすることを目指している。 2016年度には研究休暇を取得することを希望しており,それが実現する場合には,研究の場はドイツが中心となる。滞在は最長でも1年間にとどまるので,その限られた期間に何ができるのかを事前に見定め限定する必要があるため,2015年度の研究においては,上記理論分野の検討と並んで,研究全体を見渡した網羅的な点検を行ってゆく予定である。 資料収集については,2016年度にドイツにおいて集中的に進める予定であり,本年度においては無理のない程度のルーティーンワークとして継続する。 この間の研究成果は一定程度蓄積されているにもかかわらず,それを論文化する作業が遅れている。過去10年ばかりのあいだで口頭発表等のまま放置されている課題を極力論文として発表し,研究者共同体のなかで検証を受けてゆく。
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Causes of Carryover |
海外旅費において宿泊費を請求しなかったため,当初見込みよりも支出が少なく済んだ。その分を書籍購入に回したものの,少額が残額として残った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度および2016年度においては,海外旅費がより多く見込まれるため,そちらに回すことを予定している。
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