2015 Fiscal Year Research-status Report
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26370395
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
初見 基 日本大学, 文理学部, 教授 (90198771)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ドイツ / 戦後 / 第一次大戦後 / 第二次大戦後 / 戦後意識 / 想起による連帯 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度においては,以下の2点において研究が進められた。 第一は,〈第二次大戦後〉の文化・思想状況を考察するうえで〈第一次大戦後〉をも対比的に捉えてゆく必要性が生じたため,これに関する研究を進めた。両者には,大戦争という〈破局〉を経験した後の心性として共通する,ないしは反復されている局面があるのと同時に,おおきく異なった点も見られ,これを仔細に検討することによって〈第二次大戦後〉の〈戦後意識〉をより幅広い視野から位置づけられると考えたという理由による。具体的には,その予備段階として,第一次大戦前夜としての19世紀末から1910年代のドイツの文化状況を〈都市の成立〉という現象との関連のなかでドイツ語圏の〈近代(Moderne)〉の問題として設定し,ゲオルク・ジンメル,表現主義芸術家,そしてヴァルター・ベンヤミンの所論などを手がかりとして検討する論文を1本発表した。 第二は,第二次大戦後の〈過去の克服〉の議論を思想史的に跡づける作業を開始した。この議論については,戦後直後から1950年代の雌伏記を経て,1960年代から活発化し1980年代半ばにひとつの区切りをみるかたちで,その後の〈記憶文化〉の隆盛へとつながってゆく,というおおきな見取り図のもとに,今後2017年度末までの2年間をかけてまとめあげてゆく予定である。2015年度は,カール・ヤスパースが1946年に発表した文章から〈連帯〉概念に着目し,これを1980年代半ばの歴史家論争の過程でユルゲン・ハーバーマスが唱えはじめた〈想起による連帯(anamnetische Solidaritaet)〉と結びつけて考え,さらにそこには〈第一次大戦後〉の思想の成果であるヴァルター・ベンヤミンの歴史認識をめぐる議論が直接・間接に介在している点を指摘する論文を1本発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」欄にも記したとおり,もともとは〈第二次大戦後〉である1945年以降という時間帯を念頭に置いていた本研究ではあったが,同時に〈第一次大戦後〉をも併行的に考察してゆく必要性を感じ,そちらにも着手をしたため,研究対象がよりいっそう拡張される結果となった。それも,さらに時間を遡り,世紀転換期以降,ないしドイツ語圏の〈近代(Moderne)〉といった幅で検討を進めてゆくことになる。従来の計画より対象領域が大幅に拡張されたことになる。ただこの点のみについて述べるなら,本研究期間内での作業はどちらかと言えば副次的なものであり,また予備研究になるため,期間内に研究を最終的にまとめることは考えていない。そこで,元来の研究計画がこれによって大幅に遅延することは考えられない。 本筋の研究について述べるなら,本研究課題「現代ドイツ文化における戦後意識の継承と変容」をより内実的に限定するかたちで,1945年以降の〈過去の克服〉についての諸議論を仔細に扱い,それが1980年代以降の〈記憶文化〉へとどのようにつながっていくのか,その過程を思想史的に跡づける,と定式化した。これによって今後なすべき研究課題がより明快となり,また研究の意義そのものもより判りやすくなったと考える。 「おおむね順調に進展している」との自己評価をくだす所以である。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度に本研究遂行者は1年間の研究休暇を取得しており,主としてドイツ語圏での研究を予定しているため,ドイツの図書館・文書室などでの資料収集が容易になる。この条件を活かして,2016年度はとりわけ1950年代における新聞・雑誌などに掲載された議論を系統的に集めて,より研究のための基礎資料を充実化することをはかる。具体的には,雑誌"Wandlung"およびその周辺に掲載された議論を追う。 実際の研究の内実について述べるならば,目下のところは,1945年以降の〈過去の克服〉についての諸議論を仔細に扱うことが中心になる。具体的には,フランクフルト社会研究所がドイツ帰還後最初に為した研究事業である「集団実験(Gruppenexperiment)」およびそれに対するテーオドア・W・アドルノの論評「罪と拒絶(Schuld und Abwehr)」を検討し,これがその後のアドルノによる〈過去の処理〉をめぐる議論とどのように関連するかを跡づける。そしてそれを通じて,1950年代末から1960年代,復古的なアデナウアー時代にあって〈知的再建〉がいかなる様相で進められていったかを見てゆく。そしてそれがやがて,1960年代後半から1970年代に活発になる,旧西ドイツにおける〈過去の克服〉の言説にどのようなかたちで流れていったかを見定める。 以上が2016年度の研究推進方針となる。 2017年度は,前年度の研究成果を踏まえて,それが1980年代半ば以降の〈記憶文化〉隆盛に結びついてゆく必然性を思想内在的に跡づける予定である。
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Causes of Carryover |
2015年度は学科内での諸任務が過大であったため,夏期休暇などを利用したドイツでの調査研究をする時間的余裕をもてず,海外旅費を使用していない。そのため,いくぶんか余剰金が出ることになった。 ただし,2016年度の1年間は研究休暇を取得しており,ドイツ現地での調査研究が主となるため,海外渡航費等の使用額が多くなる見込であり,研究期間内にあっては本来の使用計画からおおきな変動は生じないと見込まれる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記のとおり,2016年度は1年間の研究休暇を取得しているため,主としてドイツ語圏において,図書館・文書室などでの資料収集を中心としたかたちで研究を進める。そこで前年度から繰り越された額は主として渡航費に充てられる。
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Research Products
(2 results)