2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370395
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
初見 基 日本大学, 文理学部, 教授 (90198771)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 戦後ドイツ / 集合的罪の否認 / 克服されざる過去 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題として設定された「現代ドイツ文化における戦後意識の継承と変容」をより具体化し,大枠としては戦後ドイツにおける〈過去の克服〉の議論が現今の〈記憶文化〉にいかに変容していったかの検討に入っている。 研究そのものはより詳細化されつつある。まず資料収集の面から述べるなら,1)戦後直後の知識人たちによる〈敗戦〉についての解釈とその言説,とりわけ〈集団的罪(Kollektivschuld)〉をめぐる議論,2)1950年代に入って〈克服されざる過去(unbewaeltige Vergangenheit)〉,そしてさらに〈過去の克服(Vergangenheitsbewaeltigung)〉という定式化がひろまってゆく過程,3)1970年代から80年代にかけてのその深化,4)1980年代半ば以降、とりわけ2000年代に入ってからの〈記憶文化〉の増殖,といった柱を中心に,書籍,雑誌論文などかなりの資料を入手できた。 資料を検討する作業は,目下のところ1945年から47年ころまでの言説を中心に追っている。そこでは,〈破局(Katastrophe)〉といった言い回しが好まれたように,責任主体を曖昧にしつつ〈ドイツ国民〉が災難ないし試練を受けているかのような表象がしばしばされているとともに,他方ではドイツ人の〈集合的罪〉がさかんに語られている。ただし〈集合的罪〉の議論のほとんどは,それを否定するための,すなわち〈集合的罪〉はドイツ人に帰せられない,と主張するものであった点は,より仔細にわたって分析する必要がある。 さらに,戦後直後を代表する雑誌である"Frankfurter Hefte"および"Wandlung"を中心にして,当時の言説空間がいかに形成されていったかを調査・分析しているところで,年度内での論文発表はかなわなかったものの,2017年度中には公表できる予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記「研究実績概要」に記したとおり,研究資料については,2016年11月から2017年3月にかけてドイツ連邦共和国のベルリンに滞在して,ベルリン・フンボルト大学図書館,ベルリン自由大学図書館,「恐怖の地誌」図書館,テーオドア・W・アドルノ文書館,さらには古書店などで収集した結果,当初の思惑をはるかに越えるかたちですすめることができた。 ただ資料の量が膨大になったため検討対象も大幅に拡張し,当初の予定からするなら資料分析作業は一見したところ遅滞しているかのようではあるが,実のところは研究対象の幅が拡がったぶん内容的な深化もされており,研究そのものにとっては決して否定的な事態となっているわけではない。 2016年度内にはドイツに滞在して資料収集とその検討を中心に据えていたために論文のかたちでの研究成果公表をしていないものの,準備作業は滞りなく進められ草稿自体は一定程度できあがっており,2017年度中には中途成果発表をする予定である。さらに今後1年間程度を目指して,よりまとまったかたちでの公開を考えており,それに向けた準備作業も順調に行われている。 全般としては,順調な進捗と自己評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度研究の継続として今年度は,1)1945年から50年くらいまでに公開されているナチ・ドイツの過去をめぐる言説の分析として,主として雑誌"Frankfurter Hefte"および"Wandlung"掲載の論文を検討する,さらに,2)1950年代半ばに〈克服されざる過去〉,〈過去の克服〉なる定式化が生じ,それが1960年代初頭までに一定程度一般化してゆく過程を追ってゆく。 1)については,なかでも〈集団的罪〉をめぐる議論を再検討したうえで,1980年代に入り〈第二の罪〉(ラルフ・ジオルダーノ)が問題化され,また1990年代には「国防軍の犯罪展」でのように国防軍の一般兵士や,「ゴールドハーゲン論争」におけるように〈普通のドイツ人〉のナチ加担問題に焦点が当てられていった事態についても,1950年前後の議論とのかかわりを見据えつつ分析を加える。 2)については,テーオドア・W・アドルノらフランクフルト学派の議論および実践がこの過程にいかに関与していったかを中心に,思想史的な検討を加える。とりわけ1950年代初頭に実施されたフランクフルト社会研究所による調査と,それをもとにした質的分析から,アドルノが〈過去の処理(Aufarbeitung der Vergangenheit)〉について発言するにいたる経緯を思想内在的にたどることで,戦後ドイツにおける言説空間の一端を明らかにすることを目指す。
|
Causes of Carryover |
2016年度は勤務先から研究休暇を取得して半年ほどベルリンで研究を遂行しており,煩雑さを避けるため図書購入等はほとんど研究費を用いず自費支出をしていたために,相当額の研究費を次年度繰り越しのかたちで使用することになった。また帰国が3月20日だったため,研究のためのベルリン滞在費は2016年度ではなく2017年度の研究費から支出することになっているため,その分の費用も次年度送りとなっている。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
資料収集補遺のため1回の海外渡航(ベルリン・12月末の予定)および書籍購入によって,ほとんどの額が支出される予定である。
|