2015 Fiscal Year Research-status Report
古代ロシア文語成立時におけるブルガリア制作アプラコスのルーシへの伝播と寄与
Project/Area Number |
26370399
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
岩井 憲幸 明治大学, 文学部, 教授 (60193710)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
服部 文昭 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (80228494)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 古代ロシア文語 / 古代教会スラヴ語 / ブルガリア写本 / スラヴ文献学 |
Outline of Annual Research Achievements |
岩井の許でのテクスト電子化作業の内『サバの本』(Sav)については、カノン部分(Sav2)と非カノン部分(Sav1, Sav3)は共に電子化・校正・福音書番号順の並べ換えを済ませた。『ヴァチカン・パリンプセスト』(Vat.Pal.)については電子化の後、第一次の校正を行ないさらに、校訂本中小文字で表示されている箇所(Vat.Pal.原本がパリンプセスト故、判読がやや困難な部分をこのように活字化)を校正において色分けする作業を行なった。今次作成するパラレル・テクストにおいては、文字の大小を技術的に区別することが困難なため、色分けにより表示する方式に改める下準備である。一方、岩井は非カノン部分のSav3(11c末―12c初、ロシアで成立)が、Vat.Pal.と対置させることの妥当性を再吟味すべく、その言語的特性を検討した。Menologion中の聖土曜日に誦する早課11の福音の内、第10の福音がSav2とSav3で重複して存在する故、ここでの差異を手掛りとして、文字・記号・音韻・形態・語彙の諸側面に亘りSav3を詳細に調査した。結論として、Sav3は全体からみればカノンのSav2から大幅に逸脱するテクストを有するわけではなく、Sav3が依拠したと推定される東ブルガリアで既に改修を加えられたテクストの影響下で、一部ロシア化した現象が認められるテクストである、よってSav3はこの点を認識した上であれば、Sav2と同等に扱ってよい、と考える。 服部は、従前のようにアプラコスの研究を続けると同時に、『スヴャトスラフの文集』や旧約聖書続編などのようなキリスト教文化全般に関わる諸テクストの中世ロシアへの伝播におけるブルガリア写本の影響についても考察を広げている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Vat.Pal.刊本の大小活字、不読文字等の処理に多くの時間を費した。しかし、おおむね順調である。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初、前次研究まで作成を終えた『アルハンゲリスク福音書』『オストロミール福音書』『ムスチスラフ福音書』『サバの本』カノン部分(Sav2)のパラレル・テクストに、今次作成のVat.Pal.およびSav全体(Sav1, Sav2, Sav3)のパラレル・テクストを加えて5写本のパラレル・テクスト作成を企図したが、これをとりやめ、今次はVat.Pal.とSav1, Sav2, Sav3のパラレル・テクスト作成に留める。その理由として、1) Vat.Pal.テクスト刊本の難読部分に多くの疑問点がある、2) これを確認する術がない(А.Джурова, Украсата на Ватиканския кирилски палимпсест, Vat.gr. 2502, 2002, Софияにはファクシミリを載せるが、パリンプセスト故、ほとんど読めず)、よって結局ブルガリア刊本に依拠するほかはない。3) 文献学的正確さを期する立場から、Vat.Pal.刊本を暫定的テクストと認めて、これをSav全体とのパラレル・テクスト作成に留めるのが妥当と考える。 以上から、最終年度ではVat.Pal.に上記色分けを施した上で、後に四福音順に置き換え、これを処理を終了したSav全体に対置させてパラレル・テクストを作成する。同時に両者を、さらに既存の上記4本対比テクストとも比較検討を行ない、とりわけロシアのアプラコスとの関連性を重視しつつ、課題究明にあたる。さいごに報告書を作成して関係する研究者や研究機関に配布し、得られた知見の共有化をはかりたい。
|
Causes of Carryover |
経費の節約をしたため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度の経費で有効活用する。
|