2014 Fiscal Year Research-status Report
19世紀ロシアの哲学詩とその文化的意義に関する研究
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26370400
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
坂庭 淳史 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (80329044)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ロシア文学 / ロシア思想 / ロシア詩 / 愛智会 / スタンケーヴィチ / ベリンスキー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、19世紀ロシアの「哲学詩」を主な研究対象とし、哲学、宗教、歴史、政治、教育などの観点からその文化的意義について総合的に分析することにある。この研究目的に基づき、平成26年度に行った発表3件、執筆した論文1件について順に記述する(紙幅の都合から、サンクト・ペテルブルグでの国際学会発表「ロシアへの帰還:チュッチェフとドストエフスキー」については割愛するが、この内容は2015年度にロシアの雑誌に掲載される予定である)。 平成26年度9月8日にサンクト・ペテルブルグのロシア文学研究所で行われた国際学会「F.I.チュッチェフの詩、政論、信仰における『愛による統一』」において、発表(論題:チュッチェフの詩「白鳥」における「二重の無底」)を行った。この発表では、これまでプラトンの「イデア」やシェリングの「無底」と結び付けられてきた詩人チュッチェフが、実は観念論から一定の距離を保ち、「二重の無底」という現実に即した概念を提示していることを示した。 2015年3月5日に北海道大学で行われた「プラトンとロシア」研究会では、「愛智会」のメンバーでもあったシェヴィリョフの著作『詩の理論』を取り上げ、美のイデア研究からスタートした彼が、次第に理論至上主義に向かい、さらには現実の保守思想に傾斜していく様子を示した。 2015年3月に刊行された、早稲田大学文学研究科紀要では、「理想と現実」をキーワードにして、哲学サークル「愛智会」から「スタンケーヴィチ・サークル」、批評家ベリンスキー、さらにはチュッチェフや19世紀後半の思想家でロシアの象徴主義に大きな影響を与えたソロヴィヨフまで、ほぼ19世紀全体にわたる「詩と哲学」のつながりについての歴史を素描した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究計画については、①ラーイチやガーリチ、パヴロフ、ド・メストル、デカブリストなど愛智会より前に活躍し、その文学・思想的基盤をロシアにおいて準備した世代の著作/彼らが哲学詩に与えた影響 ②プーシキン、バラトゥインスキー、チュッチェフなど同時代の詩人たちの哲学的な詩(広義の「哲学詩」)の解釈と愛智会の詩人たちの作品との比較 という2点があった。特に後者については研究をおおむね計画通りに進めることができた。さらに「哲学詩」からソロヴィヨフやドストエフスキーなど、19世紀後半の文学や思想への流れについても概観することができた。前者については、資料収集のみにとどまっているため、今後考察・分析を進めたい。 研究全体の目的としては、a)「理想(イデア)」と「現実」の関係性 b)ロシア社会における詩(文学)の役割 c)新たな「知」の形式の模索 の3点を掲げているが、平成26年度の研究においてはこの方向性に大きな変更は生じていない。
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Strategy for Future Research Activity |
「達成度」の項でも述べているように、ラーイチやガーリチ、パヴロフ、ド・メストル、デカブリストなど愛智会より前に活躍し、その文学・思想的基盤をロシアにおいて準備した世代の著作/彼らが哲学詩に与えた影響についての考察・分析をすすめる。あわせて、2015年8月に行われるICCEES幕張大会での発表を中心に、ロシア文学史を「哲学詩」および「理想(イデア)と現実」という切り口で分析することの有用性を広くアピールしていく。平成26年度の研究の中で、1830年にプーシキンによって書かれた韻文小説『オヴゲーニー・オネーギン』、1859年にゴンチャローフが発表した小説『オブローモフ』についても「詩」や「哲学」といったジャンルが、半ば擬人化したような形式で扱われていることが分かってきた。この2作品についても「思想詩」研究の文脈の中に取り入れて考察していく。
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Causes of Carryover |
2015年8月3日から8日に行われる国際中欧・東欧研究協議会(ICCEES)幕張大会で、坂庭が組織するパネル「ロシア観念論の諸問題」に発表者として、サンクト・ペテルブルグ大学イーゴリ・エヴラムピエフ教授を招聘するため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
サンクト・ペテルブルグ大学イーゴリ・エヴラムピエフ教授の学会招聘(航空券・滞在費:滞在予定8月2日から8月10日)
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