2016 Fiscal Year Annual Research Report
The Study of Russian Philosophical Poetry in the 19th century and its importance for Russian Culture
Project/Area Number |
26370400
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
坂庭 淳史 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80329044)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ロシア文学 / 詩 / ロシア思想 / チュッチェフ / チャアダーエフ / 愛智会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、19世紀ロシアの「哲学詩」の文化的意味の総合的な分析にある。まず最終年度である平成28年度の活動について国際学会発表を中心に記し、最後に簡単に研究の総括と今後の課題について触れる。 平成28年6月4日から8日にクラクフで開催された国際学会「ピョートル・チャアダーエフ:祖国の愛と真実の愛の狭間で」において、「チャアダーエフとチュッチェフ」と題する発表を行った。親友であり論敵であった二人の「ロシアと西欧」に関する著作に注目し、1)超国家的な世界観の類似 2)歴史観の決定的差異 3)カオスとコスモスの感覚の差異 の分析を通して、背景にあるカトリック保守思想と正教・ロシア政府の保守思想の違い、およびチュッチェフの詩におけるカオス表象の独自性について明らかにした。なお、この発表に基づく論文は平成29年にアメリカで刊行予定の論集に収録される。平成28年9月15日から18日にオフストゥク(ロシア)で開催された学会「21世紀におけるチュッチェフ創作遺産の理解」では、「『デニーシエヴァ詩篇』における哲学」と題して発表した。友人であったドイツ哲学者シェリングの思想とのチュッチェフの詩の思想の共鳴とその独自の展開について検討している。また、平成27年度の国際学会発表に基づく論文がサンクト・ペテルブルク大学の学術誌(2016年8月)に掲載された。 これまでの研究を総括するなら、1830年代の文学における現実と理想の乖離、および「哲学詩」がそこで果たした象徴的役割について、思想的背景を探りつつ明らかにできたことをその成果としたい。なお、今後の発展的研究の課題は大きく2つある。第1には「哲学詩」が文学史上で接続していく「小説」における「詩」のイメージの詳細な分析である。第2には「哲学詩」の基層に、さらにはロシア文学の基層に大きく広がっている「全一性」の概念とその形成の解明である。
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