2015 Fiscal Year Research-status Report
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26370403
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 徳也 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10213068)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | モダニティ / 周作人 / 唯美 / 近代文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)「モダニティ」”modernity”という用語は、論者によってかなり違う内容を含む概念として論じられている。特に、北米の近代アジア研究の領域では、ほとんど、グローバリゼーションと同じような意味で用いられている。それだと、ヨーロッパのモダニティ論(フーコー、ハーバーマス)と直接つながらない。(2)“唯美”という中国語は1990年代後半から2000年代前半にかけて頻繁に用いられたが、その後特に2010年代は、特に顕著な多用がされているわけではなく、日常的な語彙として定着していないように見受けられる。霍建起が90年代に「唯美派」映画監督と呼ばれたが、その後はあまりその呼称は使われてなくなっている。(3)「近代文学」が社会的に大きな力を持ったのは、日本なら明治20-30年代から平成初あたりまでの百年間、中国なら、1920年頃から1990年代までの約70年ほど、という文学史観は、十分精査検討すべき観点と思われる。ただし「近代文学」の概念を精密に定義づける必要がある。(4)モダニティと人間観は深い関係にあるが、20世紀初頭あたりから1940年代までは、日本語の「人間」がそのまま中国語の文章の中でも借用されることが頻繁に起こった。元来の中国語の”人間”は「世間」「人間世界」といった空間的ニュアンスを含んだ語彙としてあり、「ヒト」と同義の日本語の「人間」の導入と同時に混用されていた。日本漢語の借用を積極的に進めかつ中国の文壇で大きな影響力を持ったのは周作人であるが、彼の”人間”の用例には、「ヒト」の場合と空間的な「人間世界」の場合両方存在し、「ヒト」の意味の場合は、生物学的人間観に則っていると見られる。詳しい内容は、論文「周作人における”人間”とその多義性ー日本語との関わりについて」にまとめ、学術誌『野草』に投稿中。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画よりも、周作人研究と現代文化の日中比較に重点を置くことになったが、大枠としては変更の必要はなく、いくつかの重要なポイントについては、細部にまで研究は進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
語彙に対する調査は研究期間が終了するまでにひととおり行って状況を整理する。 近現代文学あるいは文化に対する日中の歴史的比較も、個々の作者や作品の比較を踏まえながら、日中の歴史を、なるべく巨視的に比較した研究成果を出したいと考えている。 その過程で、「モダニティ」、「近代文学」、「美」、「芸術」などのキーコンセプトについても、適切な定義付けと、課題を明確にするよう整理して行きたい。
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Research Products
(1 results)