2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370408
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
大平 幸代 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (90351725)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 地方志 / 魏晋南北朝 / 中国 / 志怪 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、晋宋期における文人の博物地理認識およびその表現を明らかにすることを目指したものである。当時の士人の地理空間認識のありようをしるためには、開発途上にあった荊楚地域の文化、とりわけ当地の地方官僚の文筆活動の諸相を明らかにする必要がある。よって、平成26年度は、地方志編纂の場に着目し、地方の風土や文化がいかに記されたかについて、『始興記』や『神境記』を事例として考察した。具体的な成果は次の通りである。 1.晋宋期に編纂された地方志佚文の収集・整理 『始興記』『始安記』『南康記』『湘中記』など、江州荊州南部の地方志を中心に、佚文を収集整理した。また、地方志の編纂者の事跡についても、可能な限り考察した。 2.地方志における怪異および山水美の記録についての考察 地方志に欠かせないのが、当地の神廟およびそこでの怪異現象の記録である。なかでも、舜廟が点在する湘水流域では、歴代の太守による祭祀や碑文の制作が活発に行われてきた。注目すべきは、晋宋期に、廟の周辺環境や祭祀のありさまが記録されるようになったことである。そこで、九疑山の舜廟祭祀と深い関連をもつと思われる『神境記』をとりあげ、祭祀の任にあたった戸曹がどのように廟周辺の山水を見、文字で表現したかについて考察した。「神境」は、当時流行していた神仙隠逸風の空間として描出されるが、記録者は、異物や奇事だけでなく、自ら山水に分け入り観察した祭祀の様子や周辺環境についても記す。それらの記録は、地方志編纂者が、高門貴族や隠者の山水遊記とは違った視点や描写方法を獲得していたことを示していると思われるが、この点については、地方志の記録を山水文学の展開のなかに位置づけ、より詳細な検討を行う必要があろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
地方志の輯佚作業のペースは予定よりやや遅い。編者不詳のものも多く、分類整理が困難な場合が少なくないためである。今後、個々の書籍の編纂状況や内容の検討をあわせて行うことで、整理作業を進めていく予定である。 一方、地方志の編者や編纂状況についての考察は、ほぼ順調に進んでいる。地理書における山水と志怪の関係、地方官僚による神廟の祭祀と廟記の性質など、明らかにすべき課題がより明確になった。
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Strategy for Future Research Activity |
次の1、2を重点的に行い、可能であれば3に進む。 1.引き続き、地方志の整理作業を進める。 2.地理書の記録がいかに「志怪」書に取り入れられていったかを明らかにする。「志怪」書については『捜神後記』『幽明録』『異苑』『述異記』を中心にとりあげ、地理書については地方志佚文および『水経注』中の記事を中心にとりあつかう。また、山水描写が「志怪」の一部に組み込まれてゆくさまを、山水詩文の展開を視野に入れながら、検討する。 2.荊楚の地理書中の記事について、桓温・桓玄父子や歴代の刺史など、当地と関連をもつ人々がどのように記されているのかを検討し、反乱や善政をめぐる怪異伝承がいかに生み出されていくのかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
研究内容の変更により、予定していた国内出張をとりやめたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
マレーシアで行われる国際学会に参加することになったため、「次年度使用額」を海外旅費の一部として使用する。
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Research Products
(1 results)