2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370408
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
大平 幸代 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (90351725)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 志怪 / 地方志 / 山水 / 魏晋南北朝 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、地方志および「志怪」書にみえる山水と怪異にまつわる記事に焦点をあて、南朝晋宋時期の「志怪」の書における山水描写の意味、地方志における山水美と神秘性との関係を明らかにすることを目指した。劉宋期の「志怪」に山水描写が多いことはすでに論じられているが、怪事を記すうえでの山水描写の効果については、従来踏み込んだ議論がなされていなかった。そこで、本研究では、よく知られる劉晨・阮肇や王質の仙界訪問譚をとりあげながら、地方志の中に神仙境がうまれていく様子、「志怪」の中で故事が変容してゆくさまを考察した。明らかにしえたのは、主に以下の点である。 東晋から劉宋にかけておこった山水ブームの中で、人跡稀な悪道や人を迷わせる山水美に関心が集まる。その美は神性を伴っており、山中を闊歩する道士・隠者の様子が称賛をこめて伝えられ、山中の神域に迷い込んだ民の逸話が記録されるようになった。 また、「遊仙詩」の舞台だとされる場所、神仙が訪れたとされる場所が、遊覧の名所として知られるようにもなった。こういった風潮にともない、地方志のなかにも、現実の土地と結びついた仙境、実際に足を踏み入れることのできる「神仙の境」がしばしば記されるようになった。 「志怪」書には、特定の地方の伝承にもとづいた怪異が多数記される。それらが直接地方志に基づいたか否かは不明であるが、少なくとも同じ伝承をもとにしていることは疑いない。山中で起こる神怪事象は、その地の山水の美と不可分のものとして認識されていたはずである。その一方、「志怪」書によって有名になった故事は、後世、土地と切り離されて受容される。例えば、「王質爛柯」は、本来、美しい信安県山中の神仙の音に聞き惚れる話であったのが、仙人の囲碁を眺める話となり、別の地域の逸話としても転用されるようになった、と考えられるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「志怪」における山水描写の由来を、地方志に記される山水の美と神性、その背後にある南朝貴族・隠士の山水愛好から説明しえた点は、一定の成果だといえる。ただし、とりあつかう地方志の範囲が広がったため、資料の整理が十分に追いついていない。また、地方官僚組織と地域の記録の関係についても、資料が充分に収集できていないこともあり、考察が及んでいない。
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Strategy for Future Research Activity |
地方志の整理・検討をつづける一方、「志怪」書の記述との重複をさらに調査していく。また、地方の偉人顕彰のための説話などにも目を向け、地方志記述の意味をより広く探究していく。特に、荊楚地域の叛乱と伝承との関係を明らかにし、中央の歴史とはことなる記述のありかたを探る。また、同地域における昔語りのあり方を、思想・風土、官吏登用のしくみ、人的ネットワークなどから考察する。
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Causes of Carryover |
研究計画の変更により、資料整理が後回しになり、データのチェックにかかる人件費を支出しなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
順次データの校正作業を進め、謝金を支出する。他は、予定通り、主に書籍やデータベースの購入費用にあてる。
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Research Products
(2 results)