2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370408
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
大平 幸代 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (90351725)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 地方志 / 述征記 / 博物 / 魏晋南北朝 / 劉裕 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、主に、晋末宋初の地理描写のありかたとその時代状況について考察した。 東晋末、劉裕は二度の北伐を行ったが、このとき、戴延之『西征記』・郭縁生『述征記』・伍緝之『従征記』など多数の従軍遊記が記された。これらはいずれもすでに散佚しているが、佚文から一定の傾向を探ることはできる。 従軍遊記を記したのは、ほとんどが中下級の士族で、地方志や志怪書の編者も含まれる。記載内容は地理書に近く、山や谷、廟や塚の場所、当地の歴史、父老の言、洛陽・長安の宮殿などが記され、北方の事物に対する博物学的興味を示す記録も散見される。また、晋宋革命を暗示する瑞祥や劉裕の祖とされる漢王朝の廟や墓についても記録されており、従軍遊記が、東晋から宋への禅譲革命劇の演出の一つとして効果的な役割を果たしているさまが見てとれる。 また、従軍の途上では、張良の廟や漢の高祖の廟の修復およびそれを記念する詩宴など、しばしば大規模なイベントが行われており、傅亮や謝瞻がその主導者であったことが分かる。とくに注目すべきは、北伐の成功と終了をつげる彭城での馬射と詩歌の宴である。謝霊運や謝瞻らによる彭城の戯馬台での詩作は、劉裕を皇帝にふさわしい人物として印象づけるための効果的な装飾であった。この後、劉裕の下で高門貴族が重用されていくが、北伐でのイベントが一つの画期であったとみてよいだろう。 劉宋期には、『世説新語』などの逸話集や地方志が王族とその幕下の文人たちによって編纂される。また、いわゆる寒門の士が詩文や学問で重用されるようになる。それら劉宋文学の萌芽が、北伐時期の文筆活動にすでにうかがえるのだが、それについては今後、宋の文帝・孝武帝期における学術と文章について引き続き検討していくことにより、道筋をあきらかにしていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
考察の対象が、南方の地方志と志怪書から北方の地理歴史の記録にまで広がったため、新たな資料の収集・整理に時間を費やした。 ただし、この作業により、晋末宋初(晋宋禅譲革命)の時代状況と文筆活動(主な担い手および執筆内容)が把握できたため、最終年度の総合的考察の基礎を固めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、南朝宋の地理書の考察を進める。まずは、宋初の塚墓や礼学と書物の受容について論考をまとめて発表する。 さらに、地方の山水と怪異をめぐる伝承について、記録者と記録形態を明らかにすべく、歴史書やその注釈の調査を進める。 また、進捗状況によってはさらに、地域の伝承が詩歌にとりいれられ物語をふくらませていくさまを考察したい。
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Causes of Carryover |
国際学会への参加を次年度にしたため、海外旅費を使用しなかった。なお、海外旅費として計上した額のうち、一部は物品費(図書)に振りかえた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国際学会参加のための旅費の一部にあてる。
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Research Products
(2 results)