2015 Fiscal Year Research-status Report
20世紀初頭の中国における知の形成とナショナリズムー周作人と民俗学
Project/Area Number |
26370414
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
子安 加余子 中央大学, 経済学部, 准教授 (10377468)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 周作人 / 柳田国男 / 『ひだびと』 / 江馬修 / 江間三枝子 / 日本民俗学 / 戦争 / 『山の民』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の二年目にあたる2015年度においては、主として周作人と日本民俗学の関係に焦点を絞って研究を進めてきた。具体的には周作人が注目した、ないしは受容し(かつ拒絶し)た、柳田国男民俗学および、彼の強い影響下にあった江間修・三枝子夫妻の活動に関して調査検討することによって、柳田国男の郷土研究から、『ひだびと』(戦時下)、約10年継続された地方民俗誌。柳田ら中央から高い評価を得たもの)の受容のあり方を検討した。 上記の作業を通じて、『ひだびと』は、飛騨高山という地方(柳田のいう郷土)が舞台であった点で、柳田国男の郷土研究を実証的に行う場として機能する側面がった。主催者の江間夫妻が、直接間接に柳田の強い影響下にあったこともそれを後押しした。そうした『ひだびと』に、日本の民俗を好んだ周作人もまた好意を寄せた。周作人が柳田民俗学の郷土観念に対して、反発する部分を持ちながらも評価していた理由でもある。『ひだびと』は戦局の悪化に伴い停刊を余儀なくされるが、ちょうどその頃、周作人と柳田国男が直接会見する可能性があった(1943年)点も興味深い。 日本研究屋をたたむことを公言して占領下北京に留まることを決意しながらも、日本民俗学と向き合い続けた周作人の思考法は、様々な評価を得てきた。だが、『ひだびと』に集った柳田民俗学門下の活動との接点から、全体主義体制が確立するのを目の当たりにしつつ、それへの「抵抗」という顕在的行為は示さずとも、より深い意識の中でそれに一体化しない工夫が、周作人の民俗学研究の中に見出すことが可能ではないかという結論に達した。その成果の一部は、「周作人の郷土をめぐる葛藤――柳田国男『郷土研究』と江馬修の『ひだびと』」(土田哲夫編著『近現代東アジアの文化と政治』中央大学政策文化総合研究所研究叢書19所収、2015)と題して公表済みである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究二年目に行う予定であった周作人民俗学と柳田民俗学の学術的発想のあり方、研究手法の特徴や形成過程、両者の学術的な影響関係、戦争と民俗学の問題は、一定の成果を得、その一部はすでに公表済みであることから、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。 また具体的テーマとして取り上げた『ひだびと』(戦時下の地方民俗誌)関連資料を調査する為、実際飛騨高山へ行く予定にしていたが、幸い国立国会図書館デジタルライブラリーで『ひだびと』が公表されており、関連資料も容易に入手が可能であったため、調査旅行を取りやめその分の費用を、図書購入に回すことでより実証的な研究が可能になった。
|
Strategy for Future Research Activity |
2016年度は本研究の総括にあたる年になる為、一、二年目の研究成果を基に、周作人自身のテクストの精読と関連資料の調査に重点を置くことになる。その前に、二年目でやり残した周作人と日本民俗学の関係のうち、柳宗悦の日本民藝運動との関係を検討しておく必要を感じており、先に取り組む予定である(必要資料はすでに購入済みである)。さらに研究と並行して作成してきた、「周作人、民俗学関連講読年表」を完成させる予定でいる。 近年、周作人のテクストの整理刊行が進み、より体系的に彼の膨大な仕事を検討することが可能になった。同じく、中国民俗学関連資料のうち、未整理なものを整理し体系化することは、ひいては、周作人の中国民俗学創出(近代言説)のあり方を、歴史的、思想史的に位置づけ、その意義を探る手掛かりになることと思われる。だが、これら大量の資料を読了・精査するには相応の時間が必要とされるため、夏休み等を有効に利用するつもりである。さらに、本研究課題に対する客観的評価を得る為、学会・研究会等への積極的な参加を考えている。 本研究は、中国民俗学の形成を通じて、周作人が20世紀初頭に掲げた「知」のあり方の、学術的意味を捉えることを大目的にしており、最終年度はその到達点を意識しながら作業を進めていく予定である。
|
Research Products
(1 results)