2015 Fiscal Year Research-status Report
「少女小説」の受容とコロニアリズムの関係をめぐる日露比較研究
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26370429
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
溝渕 園子 広島大学, 文学研究科, 准教授 (40332861)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 少女小説 / 受容 / 近代日本文化 / 近代ロシア文化 / コロニアリズム / ジェンダー / 比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
近代の日本およびロシアの<少女文化>において、「少女小説」というジェンダー化されたジャンルは、女性教育の発展とともに、欧米の少女文学を翻訳という形で受容することによって形成されたとみられる。 本研究の目的は、「少女小説」の形成をめぐるさまざまな欲望が、日露双方の文化において歴史的・政治的文脈とどのように関わりあうのかという問題について、比較文学の研究方法を用いつつ、次の3点を中心に考察することにある。それは、(1)欧米の「少女小説」の受容経路の解明、(2)戦争を経験する中で「少女小説」という一ジャンルを成立させる枠組みの構築の検証、(3)生産されたテクストに見られる物語の規範化の特徴にかんする検討、以上の3点である。 平成27年度当初の研究実施計画は、(1)「少女小説」の主題の抽出、(2)ジェンダーとコロニアリズムの問題の関連付け、というように、研究の収集データの分析と考察に主眼をおいたものであった。 本年度実施した内容としては、まず明治から昭和初期にかけての日本における「少女小説」の系譜を整理し、次にロシアの「少女小説」の代表的作家であるリーヂア・チャールスカヤの作家活動を中心に調査し、主要作品の主題の分析を行った。さらに、欧米の「少女小説」の受容経路をめぐって、モスクワや東京といった両国の首都のみならず、日露両国の<辺境>である旧樺太/サハリンも文化接触領域として視野に入れ、多元的な考察を試みた。 ただ、「少女小説」の主題とコロニアリズムの関係を理論づけるまでには至っていない。受容経路の解明についても課題を残す結果となった。よって、考察の充実を図るため、該当部分の検証結果をまって、次年度に論文の形で公表することとしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度は、2000年以降急増したL. チャールスカヤの先行研究の収集および整理、第二次世界大戦以前の旧樺太/サハリン時代における日露少女の読み物文化にかんする現地調査を行ったが、想定を超える時間を要したため、理論的に検証するには至らなかった。 しかしながら、収集した文献資料の理論的裏付けが整えば、研究目標の達成に向けて速度を上げることが可能である。また、欧米の「少女小説」の受容について、仮説を実証するに足る資料を現地調査によって一層充実させていく必要もある。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の実施状況をふまえ、今後、継続分のデータ整理と理論化の効率を上げる必要がある。平成28年度は、(1)本年度新たに収集した資料の読み込み、(2)日露両国の欧米の「少女小説」の翻訳目録の作成、(3)研究成果の公表、以上の3点について、重点的に研究費を使用したい。特に、(2)にかんして、目録作成の補助を継続して依頼し、研究の迅速化を図る。
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Causes of Carryover |
平成27年度に予定していたモスクワでの現地調査を次年度に繰り延べたことにより、その分の使用見込み額が次年度分として繰り越されたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に、次年度使用額を用いて、ロシアにおける欧米の「少女小説」受容経路を解明するための資料収集を行う。
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