2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26370433
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
森田 典正 早稲田大学, 国際教養学術院, 教授 (50200423)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 世界文学 / 比較文学 / 村上春樹 / ポストモダン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度における本研究はImmanuel Wallerstein, Fredric Jameson, Franco Morettiらによる「W文学」にかんする萌芽的論及から、David Damrosch, Pascale Casanovaらの基本的文献を経由し、ここ数年間の最新の文献までを網羅的に考察し、「W文学」概念の歴史的変遷を追うとともに、その再定義を行った。一方で、それを実際の比較文学的批評に応用するための的確な方法論を見いだすことにつとめた。「W文学」の概念はますます複雑化しており、決定的な定義に至ることは難しいが、新定義のためのいくつかの基本的構成要素は見つけ出すことができたと思う。 本研究は理論研究であるとともに、村上春樹の短編・長編の作品群を「W文学」の視点から読み直そうとする批評実践でもあり、また、ポストモダン論であるとともに、村上の小説のポストモダン性を探求する実証研究でもあるため、この作家の最初期から最新の作品をもう一度、丹念に読み込む作業を行った。「W文学」は基本的には翻訳文学であり、それが、グローバル化した世界で出版・流通・受容されるようになったものである。したがって、「W文学」研究は比較文学研究の一種と考えられるが、古典的比較文学と異なるのは、作品と作品、作家と作家の一対一の関係を省察するよりも、各作品のローカル性とグローバル性のせめぎ合いを考察することが中心となる。こうした研究を行うために、平成26年度には文献研究の他、村上作品のアメリカ、フランス、イタリア、チェコ、中国、韓国の翻訳者とのネットワークを構築するとともに、受容研究として、それらの国の若い読者を探し、研究に協力してもらう体勢を整えたところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「W文学」に関する国内での文献の渉猟、および、考察、また、村上春樹の各国語による翻訳本の収集、そして、「W文学」概念の理論的研究は予定通り行うことができたが、国外において翻訳者、研究者、出版者への聞き取り調査を実施することができなかった。昨年、9月に本属の役職を解かれた際、本研究へのエフォートを増やし、国外の研究を開始する予定であったが、11月より、大学の役職に就くことにより、予定していたほど、エフォートを増やすことができなかった。ただし、本年度は授業負担の軽減が可能となったため、本研究へのエフォートを増やし、国外での研究を本格的に開始したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に実行できず、本年度にもちこされた国外でのフィールドワークを、平成27年度実施予定のフィールドワークと合わせて遂行する。昨年度に構築された研究協力者のネットワークをもとに、村上春樹の作品の翻訳、出版、流通、受容にかんする事項のインタビュー調査を本格化させるとともに、各国での受容をメディア報道、書評、評論、研究書などから検証する。さらに平成26年度の文献研究をもとに、「W文学」をめぐるこれまでの議論を踏まえ、その新定義を含む研究論文を発表する。
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Causes of Carryover |
平成26年度においては、国外でのフィールドスタディーを実施することができなかったため、旅費の支出や、国外での調査にかかわる謝金が発生しなかったことがもっとも大きな理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度においては国外におけるフィールドスタディーを実施し、場合によっては、研究協力者を招聘して、聞き取り調査を本格的に行うために研究費を使用したい。また、リサーチアシスタントを増やして賃金にあてる他、作品の各国語への翻訳本の収集を集中的に行う予定である。
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