2015 Fiscal Year Research-status Report
促音節近傍におけるプロソディと象徴性の構成に関する研究
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26370437
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
那須 昭夫 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (00294174)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | オノマトペ / プロソディ / 促音 / 音声学 / 音韻論 / 日本語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,主に語末促音近傍のプロソディの特性を産出・知覚の両面から捉えるための作業を行った。 1. 録音実験データの分析:昨年度収集した音声資料について初期的分析を行い,それを踏まえて音声アノテーションの改訂に取り組んだ。計測項目を再検討し,対象をF0動態・母音時間長の二点に絞り込んだ。具体的には,F0動態と母音時間長との相互作用を探索するのが最も効果的な手法であることを見出し,その知見に基づいて改訂作業を進めた。その際最も重視したのは,語末促音節近傍付近での母音持続時間長測定のための波形観察である。母音持続部分の波形の特性(振幅・定常性・持続時間等)は個々の発話により異なるため,1080項目の標本全てについて母音区間の推定を精緻化した。この作業を踏まえ,現在,データ解析を進めている。 2. 知覚実験:F0動態が語末促音の知覚にどのように寄与するか把握するための知覚実験を実施した。刺激音声作成に際しては「これはララかも」という句を用い,母語話者に「ララ」部を「高低/低高」両様のピッチで読んでもらい,その音声を素材として,F0動態が段階的に変わる10種類の合成音を作成した。実験はPraatを用いて構成した。実験では被験者を実験群と統制群の二群に分け,前者には刺激音声が「ララッ」と聞こえるかどうかを回答してもらい,後者には刺激音声が「ララ」と聞こえるかどうかを回答してもらった。これは,促音表記を伴う指示に応答した実験群の方が低高型F0動態を持つ刺激への肯定反応が多く,逆に,促音表記のない指示に応答した統制群では否定反応が多い,という予測に基づくものである。実験は2016年1月に実施し,現在,データの解析を進めている。 3. 理論的研究:本研究の理論的基盤に係る作業として,語末促音含みの反復オノマトペの語形成について考察し,この反復形が促音付加よる派生語に由来することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的を達成する上で必須の分析基盤となる言語事実の収集を,音声産出・音声知覚の両面にわたって,短期のうちに集中的に進めることができた。 まず録音実験データの分析に関しては,音声アノテーションの精緻化作業を行い,より適切かつ合理的な分析につなげるためのデータ基盤を形成することができた。1080項目にわたる音声標本のひとつひとつについて,分析対象母音区間推定のための波形の観察・分析を逐一行ったため,これに少なからぬ時間を要したが,この作業はその後の正確かつ妥当な測定と考察を保証するために必須の過程であるため,拙速な成果を焦るよりも,意義のある分析につなげるべく,より確実な作業を心がけた。 知覚実験に関しても,本年度の課題として当初予定していた内容を確実かつ迅速に遂行できた。知覚刺激に用いる合成音声の作成に際しては,PraatのF0曲線合成機能を十分に活用することで,実験目的に照らしてほぼ理想的な刺激音の系列を作成することができた。実験デザインに関しても,PraatのExperimentMFCの機能を活用して,合理的かつ適切なデザインを構築することができた。このため,予備実験段階において特に大きな問題が生じることもなく,速やかに本実験に移行することができた。本実験の実施に際しては,実験補助者の助力を得ることで,効率的かつ円滑に作業を進めることができた。実験群・統制群の二群に分けた実験を都合2回実施したが,いずれの実験においても,実験補助者に対して事前に作業内容を十分に確認しておいたため,効率的かつ過誤のない実験が実施できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の作業課題は大きく分けて三つある。1. 録音実験データの分析,2. 知覚実験結果の分析,3. 語末促音の認知および象徴性構成の基盤として働く韻律特性に関する理論的考察である。 1.については,強調意識の異なる発話のF0動態と母音持続時間長のそれぞれについて特徴を探り出すとともに,両者の相関を探る。この分析を通じて,オノマトペの語末促音に備わる韻律特性の記述を行うとともに,語末促音による象徴効果形成に寄与する音声上の特性を明らかにする。データの解析に際しては統計的手法を大いに活用し,語末促音のプロソディの性格を特徴づける要因について,定量的側面から証拠が得られるようにする。 2.については,本年度実施した知覚実験に基づき,実験群ならびに統制群についてそれぞれ結果の分析を進めるとともに,両者の差異についての分析を行う。この作業を通じて,F0動態と促音知覚との相関を探り,オノマトペ語末促音の存在を知覚的側面から支える要因を明らかにする。なお,分析段階で当初予見していなかった新たな疑問等が出来した場合には,仮説を柔軟に修正しつつ,追加の検証実験を躊躇なく実施したい。 3.については,上記1・2を承けて,オノマトペ語末促音の認知を支える韻律特性ならびに象徴性の構成に寄与する韻律特性について,音韻理論の観点からの考察を試みる。この作業を通じて,促音符による象徴性表記が音声上・知覚上のいかなる韻律的要因に由来するものであるか把握するとともに,特定のプロソディックな動態が「促音」として認知される経緯および機序を明らかにすべく,本研究の総括に向かう考察を進めてゆく。
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Causes of Carryover |
音声データのアノテーション改訂作業について,作業補助者の協力を予定していたが,実験者本人が取り組むべき作業がほとんどであったため,当初見込んでいた人件費に残額が生じた。また,今年度実施した知覚実験についても,当初予定していた予備実験が1回で済んだため,これに係る実験補助者への謝金に残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は,1.録音実験・知覚実験のデータの統計処理および,2.理論的考察の推進と研究のとりまとめに係る経費が主な使途となる見込みである。 1.に関しては,作業補助者の雇用に係る経費等,主に人件費・謝金の支出が見込まれるほか,データの管理に不可欠な記憶媒体等の機器の準備に要する支出が見込まれる。また,追加検証実験に備えた機器(サウンドレコーダー,ハンズフリーマイクロホンなど)の準備および,合成音声作成の要が生じた際のサンプル音声提供者への謝金等の支出が見込まれる。 2.に関しては,理論的考察に必要な音韻理論関係研究書の購入および,ウェブコーパスデータの収集と蓄積に係る作業補助者への謝金等が見込まれる。このほか,研究成果の発表・論文掲載料・研究情報収集等の活動に係る旅費等の支出などが見込まれる。
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Research Products
(1 results)