2015 Fiscal Year Research-status Report
メンタルスペース理論によるアスペクトに関する日英仏対照研究
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26370448
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
井元 秀剛 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (20263329)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | テンス / アスペクト / 日本語 / 英語 / フランス語 / 対照研究 / メンタルスペース理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はフランス語で「avoir+過去分詞」、英語で「have+pp」、日本語で「た」「ている」によって主として示される完了形式が、それぞれの言語でどのような内容を表し、どこまでが共通で、どこまでが異なるのかを明らかにするとともに、その違いがどこから来ているのか、ということを各言語の文法体系の違いに依拠して説明することである。 27年度は当初掲げていた英語の現在完了形とフランス語の複合過去形との違いなどの課題ではなく、26年度に不十分であったテーマを継続した。具体的には (1)「日本語のテイル形が表現するアスペクトと英仏語の対応表現に関する研究」(2)「条件文におけるいわゆるバックシフト現象と日本語の過去形の対照研究」(3)「条件文に関する日英仏対照研究」の3つのテーマであるが、(2)と(3)に関してそれぞれ論文の形で完成させた。 バックシフト現象は時称形式が持つPASTの素性が、現実の過去の意味を表すためではなく、非現実の世界に事態を位置づけるために用いられる現象と言い替えることができる。これは各時称形式がBASEを起点にした時間的位置を必然的に定めなくてはならない英仏語に限られる現象であり、日本語には全く当てはまらないこと、日本語で「~テイタ」形が時に反実仮想の解釈に傾く傾向があるのは、単に状態性の記述が仮定文と親和性が高いことからきているにすぎないことなどを明らかにした。さらにメンタルスペース理論の観点から、英仏日本語の条件文のスペース構成を明らかにし、その特徴を明らかにし、共通点と相違点を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
27年度実際に行った研究は26年度に予定していた事柄全体の3分の2にすぎない。しかしこれはそもそも当初の計画が、初めから1年間で終えることのできる内容ではなかったというだけであって、2年目以降の課題は1年目に掲げた課題と同じような分量の内容であると思われるので、総合的には順調に進んでいると言ってよい。今後も同じペースで研究を進めていけば最終的には当初に計画した内容はほぼ実現できると判断している。 28年度は26年度に積み残した日本語のテイル形に関する分析をすすめていくつもりであるが、この問題に関してもすでに最初の二つの課題の分析で方向性が見えていることは確かである。日本語のタ形に関しては、メンタルスペースの構成によってその文法的な働きは記述できるが、テイル形はそれが下接する動詞の文法的なアスペクト形態ではなく、「見る」と「見える」のように同族語であっても異なった出来事を表現していると考えた方がよい。「~テイタ」はWhen I got to the station, the train had alreadky left.のような文を翻訳する場合に「列車はすでに出発していた」となることから、一見すると過去完了形に対応するアスペクト標識のように見えるが、動詞が表す状態変化語の存続した状態を表す状態動詞であって、それが意味的に過去完了形と重なる解釈をもつ、というだけにすぎない。これらの知見は、「そのときすぐ病院に運んでいたなら、助かっただろう」が反実、「その時すぐに病院に運んだなら助かっただろう」が事実未定、のように一見すると英語の仮定文におけるバックシフトと似たような現象が日本語に観察されるが、その実体はバックシフトとは異なるという分析などから得られたものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は26年度にあげていた最後の課題であるテイル形の分析を徹底的に行い、そこからさらに発展させて、英語やフランス語の対応するアスペクト標識との共通点と相違点に関する考察を深めたい。まず、テイル形に関して、不定形のテイルだけでなく、テイタやテイナイの形に対する考察も深める。テイタは特に反実の意味内容と結びつきやすいし、テイナイも「もうご飯を食べましたか」に対する返答として「いいえまだ食べていません」のようにタ形に対応する形になっている。否定形が特に完了性と結びつき、「食べたいますか/食べたいません」の対立関係に加えて「食べましたか/食べていません」の対立を生むというように単なる否定では解決できない問題を含んでおり、細かく例文に当たりながら理論的な考察を進めていきたい。 一方、テイル形に対応する形として英語にはbe + ~ingで表される進行形の形があり、フランス語には半過去の時称が対応する。このテイル形、進行形、半過去形が表すそれぞれの意味内容を明らかにし、その違いをメンタルスペース理論の枠組みを使って体系的かつ汎言語的な観点からの記述を試みる。特に半過去と英語の進行形についてはすでにいくつかの論文が存在しているが、いずれもまだ不十分であり、フランス語の半過去が英語の進行形のほとんどすべての用法をカバーしているというような説明がなされることが多い。しかしながら、「3時から5時まで本を読んでいた」のような文は英語では過去進行形を用いて表現できるが、フランス語の半過去形は通常用いられない。このような差異をどのようにそれぞれの時称形の価値を記述することで説明できるのか、という問題を考えていき、それ以降(来年度以降)の英仏語にまたがる理論的な考察につなげていきたい。
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Causes of Carryover |
学生を使って資料の整理とデーターペースの作成を依頼するための謝金を計上していたが、整理すべき段階に至っていないこと、さらに依頼すべき適当な学生がいなかったことから使用できなかった。旅費については他の公務のせいで、昨年度から引き続き海外研修、および学会のための出張が必ずしもできなかったため、旅費がそれほど多くを必要としなかった。物品費についてパソコンの経年劣化による新調を計画していたが、現在使用中のもので特に問題はなかったため使用が恵存できたために新たな購入が今年度は必要なかったという理由が主たるものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は他の公務による出張のため学会などの参加の機会が限られ、旅費の支出が少なかったが、来年度はそのようなことがないため、旅費の支出が増えると思われる。ただ、謝金として準備したものの、来年度も適当な学生がいないため、使用できるかどうかは未定である。一方、専門の書籍やパソコンソフト、さらには今年度使用しなかったパソコンのリニューアルか保守(少なくとも異音のするグラフィクカードの交換など)などの経費が必要になると思われる。
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