2015 Fiscal Year Research-status Report
日本語の態関連構文の連続性に関する研究: 岩手方言「さる」のvシステムの観点から
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26370453
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Research Institution | Iwate Prefectural University |
Principal Investigator |
高橋 英也 岩手県立大学, 高等教育推進センター, 准教授 (90312636)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ラサル形式 / 自動詞化形態素ar / 岩手方言 / ヴォイス / 可能動詞 / ラ抜き言葉 / 質問紙調査 / 存在・所有の動詞アル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は相互に関連した3つの個別的な研究課題から構成されている。それぞれの課題について当該年度に実施した内容は、(A)26年度に集中的に検討したar自動詞に「さる」形式が後接した、「集まらさる」のような、岩手方言の表現についての検討、(B)26年度の研究の結果として得られた、日本語における自発・受身・尊敬の(r)ar-eや、使役の(s)as-eに対する分解的接近についての更なる検討、とりわけ、上記のいわゆるVoice関連形式の末尾において共通して生起する音形eの形態統語的実態の解明、そして、(C)存在・所有形式としての本動詞アルの統語論についての検討であった。課題(A)ならびに(B)の成果の一部については、学会・講演会の機会に口頭発表した。また、課題(C)については、その検討結果の一部に基づいて論文執筆を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
26年度に引き続き精力的に学会等における口頭発表と論文執筆を行った。また、質問紙調査による実証的研究も実施し、その結果として、28年度の研究にとって有益と思われるデータを入手することができた。上記概要で記した3つの課題それぞれの内容と進捗の状況は以下の通りである。まず、(A)26年度の研究において得られた結論、すなわち、ar自動詞と「さる」形式に共通して含まれる形態素arが同一であることが正しいとすると、「さる」表現である「集まらさる」と、ar自動詞「集まる」は、意味的・統語的にどの点で区別されるのかが問題となる。この問題を解消するために、ar自動詞を形成する接尾辞arは、「さる」形式に含まれる形態素arとは異なり、相対的に構造上「低い」位置、より具体的にはCause主要部に支配される位置に生起することを提案した。他方、「さる」形式に含まれる形態素arは、少なくともCause主要部より上位の機能範疇の具現と見なされ、その有力な候補はVoice主要部となる。第二に、(B) Voice関連形式を横断的に繋ぐ鍵が形態素eにあるという洞察のもと、それがNakajima (2015)の意味でのGet主要部の具現であるという作業仮説を設定し、理論的考察を進めると同時に、質問紙調査による実証的研究も行った。最後に、(C) 26年度の研究において検討した「上がる」「務まる」といった2種類のar動詞との関連で、存在・所有形式としての本動詞アル自体の形態統語論を検討した。特に、統語論の伝統的分析と、それに対する近年の代案に対する批判的検討から出発し、「存在形式から所有形式が派生される」という意味的連続性が日本語においても成立することを仮定し、それがHAVE/BE交替現象の範疇として形態統語的に定式化される可能性について検討した。 以上のような進捗の状況から、研究の全体としての進展は概ね順調であると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度は研究の最終年度となるため、過去2年間の成果を全体として統合する段階と位置づけられる。とりわけ、中心的に検討する2つの課題は、次の通りである。 まず、27年度における上記課題(A)の成果については、26年度に得られた結論、すなわち、「ar自動詞と「さる」形式は、共に、動作主が抑制され、かわりに非顕在的な出来事項が外項として含意される到達事象としての動詞句構造を持つ」ことに対して、一見問題となるものかもしれない。したがって、28年度の研究においては、「動詞句構造上の位置にかかわらず、動詞機能範疇の主要部として具現する形態素arは、(i)外的併合による外項の導入を阻止するという統語的性質を示し、(ii)そのようなarが生起する動詞句には、非顕在的な出来事項(Davidson (1967))が導入され、(iii)同時に、本動詞arから継承された語彙的性質、すなわち、事象に完結性をもたらすというアスペクト的性質を担う」と分析することによって、26年度および27年度の成果が互いに両立するということを実証することを目指す。 第二に、27年度における上記課題(B)との関連において、(i)「ロープが切れる」における反使役化と中間構文の多義性、そして、(ii)「肉が軟らかく煮える(肉を煮る)」「鶴が見事に折れる(鶴を折る)」のような、作成事象を表す自動詞から成る結果構文について統一的な説明を与えることを目指す。実は、これらの現象の形態統語論については、先行研究においてほとんど取り上げられてこなかったが、「切れる/煮える/折れる」には、共通して形態素eが含まれ、また、いずれも可能動詞との間で興味深い多義性を示すことに鑑みて、それらの検討を通して形態素eとVoice関連現象の形態統語論に接近することができると期待する。 28年度には既に国内外の学会・研究会で2件の口頭発表を予定しており、その結果を踏まえて、最終年度に相応しい成果が得られることを目指す。
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Causes of Carryover |
27年度に予定していた「さる」形式についての方言話者を対象とした質問紙調査を、聞き取り調査に変更したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究課題にかかる実証的研究の一環として質問紙調査を実施する予定である。ただし、最終年度の研究内容に沿って、「さる」形式に限定はせず、広くヴォイス関連現象全般を対象とした調査とする。
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Research Products
(4 results)