2014 Fiscal Year Research-status Report
統語構造を派生するメカニズムの解明、及びその理論的帰結の探求
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26370457
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
北原 久嗣 慶應義塾大学, 言語文化研究所, 教授 (50301495)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 言語学 / 統語論 / 生成文法理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
生成文法理論では、その初期理論から併合 (Merge) と移動 (Move) という二つの操作が仮定されてきたが、Minimalist Inquiries (Chomsky 2000) では、併合とは異なる操作として一致 (Agree) と呼ばれる操作が提案され、移動は併合と一致の複合操作 (Move = Agree + Merge) として捉え直された。しかし On Phases (Chomsky 2008) に至っては、移動は一致から再び切り離され、二つの要素を結びつける併合操作 (Merge (α, β) => {α, β}) として定式化されている。この極めて単純な定式化のもとでは、移動と呼ばれてきた操作はすでに構造内に取り込まれた要素を対象とする内的併合 (Internal Merge) に、併合と呼ばれてきた操作はまだ構造内に取り込まれていない要素を対象とする外的併合 (External Merge) にそれぞれ捉え直され、両者の違いは併合操作 (Merge (α, β) => {α, β}) の適用手順の違いにすぎないと考えられている。
平成26年度の研究では、この極めて単純な併合の定式化 (Merge (α, β) => {α, β}) を詳細に検討し、その妥当性を支持する分析を提出した。具体的には、併合の自由適用を前提に、外的併合と内的併合が適用可能な場合に選ばれる適用手順が、統語構造を解釈する上で必要とされるラベルとの関係から、演繹的に導き出せることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究では、Merge (α, β) => {α, β} という極めて単純な併合の定式化を採択し、外的併合と内的併合が適用可能な場合に選ばれる適用手順の問題に集中的に取り組んだ。
これまでの先行研究では、他動詞文の主語はSpec-vPへの外的併合 (例えばJohn bought a bookに於けるJohnのSpec-vPへの外的併合) によって導入され、wh移動の際に仮定されてきたwh句のSpec-vPへの内的併合 (例えばwhich book did John buy?に於けるwhich bookのSpec-vPへの内的併合) に先行すると考えられてきた。しかし、本研究では、wh移動の際に仮定されてきたwh句のSpec-vPへの内的併合そのもを破棄する Chomsky (2014) のラベル付け分析を発展させ、外的併合と内的併合の違いは併合操作の適用手順の違いにすぎず、併合の自由適用を前提に、いずれの併合も選択肢になり得るという新しい分析を提出した。この分析のもと、外的併合・内的併合に関係なく、解釈可能な(正確には解釈に必要なラベル付けが可能な)統語構造を生成する併合手順が、収束する派生のなかで生じていることを明らかにした。
併合の定式化と適用手順の問題は、統語構造の派生過程および統語構造のラベル付けに深く関わるものであり、平成26年度の研究成果は、今後の研究の方向性に大きな影響を与えるものでる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究成果を踏まえ、平成27年度は、日本語と英語にみられる統語構造の多様性、具体的には語順の問題をとりあげる。動詞句を例にとれば、動詞が目的語より後にくるか ( [太郎が [[花を] 買った]] )、前にくるか ( [John [bought [flowers]]] ) で異なるが、これは動詞の位置のみならず、名詞が関係節の後にくるか ( [[太郎が買った] 花] )、前にくるか ( [flowers [that John bought]] )、後置詞が存在するか ( [太郎から] )、前置詞が存在するか ( [from John] ) というように、日本語と英語にみられる統語構造の多様性は、厳しく制限された鏡像関係 (Kuroda 1988, Saito 2012) を示している。
平成27年度はこの厳しく制限された鏡像関係を詳細に検討することから始め、鏡像関係を示す語順現象の背後にある法則性の解明を目指す。具体的には、個別言語の語彙項目にパラメータ化の余地があるかどうかを見極め、日本語と英語の間に成立する語順の鏡像関係を、併合操作とパラメータ化された語彙項目の相互作用から演繹的に導き出すことを試みる。また Aspects of the Theory of Syntax (Chomsky 1965) 以降、統語構造を生成する操作がどのように定式化され、またどのように適用されてきたかを概観し、本研究が採択するMerge (α, β) => {α, β} という極めて単純な併合の定式化とその適用手順について更に検討を加える。
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Causes of Carryover |
予定していた国外出張に加え、Chomsky教授との意見交換を目的とする国外出張が入り、その関係で、物品費および人件費・謝金の額を減額し使用を見送ったため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
英国を起点とした研究活動のための国外出張旅費(の一部)として使用する予定である。
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