2016 Fiscal Year Research-status Report
統語構造を派生するメカニズムの解明、及びその理論的帰結の探求
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26370457
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
北原 久嗣 慶應義塾大学, 言語文化研究所(三田), 教授 (50301495)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 言語学 / 統語論 / 生成文法理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
生成文法理論では、言語の多様性は生得的に具わる普遍的特性をパラメータ化することによって生じると考えられてきた。日本語と英語の統語構造の違いを例にとれば、他動詞が目的語を必要とすることは普遍的特性であるが、動詞が目的語より前にくるか ( [John [bought [flowers]]] )、後にくるか ( [太郎が [[花を] 買った]] ) は、主要部のパラメータ値 ([+主要部先行][-主要部先行]) に還元された。しかし、普遍的特性をパラメータ化する試みは記述的な特徴づけに留まり、普遍的特性をパラメータ化することの概念的問題は手つかずのままであった。
この問題意識のもと、平成28年度は、パラメータ化の対象を原理から語彙項目に移し、語彙項目のパラメータ化について、個別言語の特性として表出されている、つまり観察可能な部分にパラメータ化を還元できるのかという問題に取り組むことから始めた。また併合とその適用手順についても厳密な分析を加え、とくに併合とラベル付けに基づく分析の理論的帰結を詳細に検討した。併合とラベル付けはいずれも普遍的操作であるが、個別言語が示す語彙項目の特性との関係から、いったいどのようにして統語構造の多様性を捉えることができるのかという問題に取り組んだ。重要な研究成果としては、phi素性、Case素性、wh素性など、その値が設定されていない素性が、統語構造のラベル付けにおいて担う重要な役割を明らかにすることを通し、これまで仮定されてきた一致操作(Agree)を破棄できる可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究成果を踏まえ、パラメータ化の対象を原理から語彙項目に移し、語彙項目のパラメータ化について、個別言語の特性として表出されている、つまり観察可能な部分にパラメータ化を還元できるのかという問題に取り組んだ。本研究が採択する仮説群のもと、日本語と英語にみられる統語構造の多様性を語彙項目の素性、とりわけ値が設定されていない素性とその分布に焦点をあて、詳細に検証することができた。具体的には、「英語にはphi素性の一致(agreement)があるが、日本語にはない」、「日本語にはCase素性が音声をもって現れるが、英語はそうではない」、「日本語も英語もwh素性の値は設定されておらず、それぞれ現れた位置の統語関係によってその値が決定する」、これら日英語比較統語研究における重要な課題(Chomsky 2013, 2015, Saito 2016)について新しい分析を提出することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究成果を踏まえ、平成29年度は、phi素性、Case素性、wh素性など、その値が設定されていない素性が、統語構造のラベル付けにおいて担う重要な役割をより厳密に明らかにする。この値のない素性とラベル付けの関係を明らかにするなか、これまで仮定されてきた一致操作(Agree)を破棄することを試みる。具体的には、まず一致操作(Agree)では捉えることのできないデータを提出する。そしてその解決案として、一致操作(Agree)の探査(probe-goal search)の部分をラベル付けの際にすでに働いている最適探査(Minimal Search)に還元することを試みる。続けて一致操作(Agree)の値の付与(valuation)の部分については、統語システムではなく外在化とよばれる統語から音声へと進む過程で実際の値が付与されてきる可能性を追求する。
平成29年度も引き続き本研究に関係する領域で重要な研究成果をあげているNoam Chomsky, Samuel D. Epstein, T. Daniel Seely各教授を訪問し、専門的知識・意見の交換を行う予定である。またこれまでの研究成果を部分的にまとめて、国内外の学会、セミナー、ワークショップ等で発表する予定である。
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Causes of Carryover |
平成28年度は海外より研究者を招聘した国際セミナーを1回、国内より研究者を招聘した国内セミナーを1回、それぞれ開催したが、予定していた国際セミナー、国内セミナーを、本研究の進展を鑑み、平成29年度に移動したため次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、本研究に関係する領域で重要な研究成果をあげているNoam Chomsky, Samuel D. Epstein, T. Daniel Seely各教授を米国に訪問し専門的知識・意見の交換を行う予定である。また海外および国内より研究者を招聘し国際セミナーを開催する予定である。それぞれの計画を遂行する際に必要となる経費として使用することを予定している。
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