2015 Fiscal Year Research-status Report
反語彙主義モデルに基づく形態-統語関係の実証的研究
Project/Area Number |
26370462
|
Research Institution | Kinjo Gakuin University |
Principal Investigator |
森田 順也 金城学院大学, 文学部, 教授 (20200420)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 名詞化 / 統語-形態インターフェイス / 分散形態論 / 大規模コーパス / hapax |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、子供による言語の獲得、とりわけ語彙の獲得の説明-子供が短期間に大量の語を獲得できるのはなぜか―を最終目標として、日英語の名詞化現象に焦点を当てて、そのメカニズムを明らかにするものである。子供が限られたデータを基にして短期間に言語を獲得するという事実を説明するためには、語彙部門を制限するとともに形態‐統語の相関関係を制約することによって、子供が覚えるべき語彙項目・語彙情報を最小限にする必要がある。本研究では、「分散形態論」(Distributed Morphology)の文法モデルを基盤として、形態統語的現象の中心である名詞化(nominalization)のプロセスを対象として上記の作業を着実に推進している。具体的には、下記1-3の調査によって名詞化の創造的・普遍的側面を浮き彫りにすることを試みてきた。1.大規模コーパスに見出される日英語の名詞形hapax legomenon―ある資料で1度のみ用いられる語―を調査することによって、名詞化表現の創造的な側面を明らかにする。2.収集された日英語の名詞化の語形を精査することにより、語形決定の規則性を明らかにする。3.名詞化に関する日英語の句の包摂、及び語の内部要素と外部要素の結合の事例を収集・分析することによって、名詞化の主要なプロセスが談話的文脈に依存して統語機構で行われることを示す。上記の研究成果を公表するために、The 3rd Florida Yearly Linguistic Meetingにて、“A Syntactic-Morphological Analysis of Nominal Compounds” という題目で研究発表を行った(2016年3月10日、Florida International University)。本発表では、最適に分散された語形成のモデルを提案し、(i) 複合語が節的対応物と平行的な基底構造を持つ故に両者の主題的・意味的特性が統語部門で統一的に扱われること、及び (ii) 統語出力が形態論に送られた後、一連の形態的操作と条件に従って語形に変えられることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展している その理由: 本研究では、形態的機構の仕組み及び統語的機構との相互関係の解明を目的として、日英語の種々の名詞化表現を規則的に生成するメカニズムを明らかにする。そのために、「派生名詞及び複合語名詞はレキシコンに貯蔵されるものとされないものとに区分される」を含む計7つの作業仮説を設置し、計画通りに、以下の各ステップを踏んで仮説の検証を行った。 第一のステップとして、「事象名詞」「動作主名詞」及び「状態名詞」のリストを作成した。『逆引き広辞苑』を利用して、(i) 接尾辞 -化で終わる過程名詞、(ii) 接尾辞 -者、-人、-手、-家、-役、-主で終わる動作主名詞、及び (iii) 接尾辞 -性、-さ、-み、-け、-ぶりで終わる状態名詞をすべて列挙した。さらに先行文献や筆者が収集した実例に基づいて、漢語タイプ(e.g. 森林破壊)と和語タイプ(e.g. 車選び)の事象名詞を列挙した。合わせて、動作主名詞及び状態名詞も列挙した。第二に、hapax legomenonのリストを作成する。ステップ1で作成したリストの各語彙項目を『現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)』で検索し、hapaxの名詞表現を選別した。第三にコーパスの検索を行う。ステップ2で作成したリストの各語彙項目をBCCWJで順次検索し、上記の作業仮説に照らし合わせて必要な形態・統語的情報を、丹念に記録していった。最後にデータ解析を行い、作業仮説を検証する。その際に、複数のインフォーマントによる文法性のチェックによって、コーパスに基づく検証を適宜補った。 上記の研究成果を公表するために、論文「Postsyntactic Compoundの分析」を出版した(『現代の形態論と音声学・音韻論の視点と論点』 pp. 42-60、2015年11月、開拓社)。本論文では、データから得られるPostsyntactic Compoundの語彙的・統語的二面性および混成性の詳細を提示し、文法拡張の観点からその根源を論証した。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、英語の種々の名詞化表現を規則的に生成するメカニズムを明らかにすることによって、形態的機構の仕組み及び統語的機構との相互関係を解明することにある。平成26年度は、「英語の名詞化はどのように行われるか」について調査し、平成27年度は、「日本語の名詞化はどのように行われるか」について調査した。具体的には、最先端言語理論に基づき一連の仮説を設定した後で、各種の動詞由来名詞及び形容詞由来名詞に関して、大規模コーパスとインフォーマントチェックによって詳細な事実観察を行いながら、各作業仮説を検証していった。平成28年度は、過去2年間の研究の総括を行う。即ち、日英語の名詞化に関する広範な事実観察の結果、とりわけ両言語の共通点・相違点を整理・分類した上で、名詞化システムにまつわる妥当な原理を提案する。具体的には、次の研究活動を行う。 1. 主として大規模コーパスの検索に基づく日英語の名詞化に関する広範な事実観察の結果を、整理・分類する。 2. 先行研究を再読した後で、1の事実観察に照らし合わせて、先行研究の問題点を指摘する。 3. 作業仮説の検証に基づき、日英語の複雑語形成メカニズムに関する経験的・理論的に妥当な原理(言語事実に合致し、しかも一般性の高い原理)を提案する。 4. 広範な事実観察及び理論的分析を、学会・研究会・フォーラムで発表し論文にまとめることによって公表する。
|
Research Products
(4 results)