2015 Fiscal Year Research-status Report
ゲルマン語文法の試み-現代ゲルマン諸語全体の形態統語論に関する体系的記述
Project/Area Number |
26370471
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
清水 誠 北海道大学, 文学研究科, 教授 (40162713)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | ゲルマン語 / アイスランド語 / オランダ語 / 古ノルド語 / フェーロー語 / ドイツ語 / 新造語 / 北欧語 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目にあたる平成27年度には、雑誌論文1点、書評1点、図書 (共著) 1点を公刊し、口頭発表1点を行った。 まず、雑誌論文「アイスランド語の言語学用語 (2)―現代アイスランド語文法記述の基礎的作業」は、昨年度の研究テーマ「ゲルマン諸語の新造語とその形態論的特徴」の継続的成果である。アイスランド語は外来語の輸入を極端に排し、古来の語彙を縦横に駆使する新造語によって、近代以降、大量の専門用語を編み出してきた他に類例を見ないゲルマン語である。本研究成果および昨年度に発表したその前半部を通じて、他の北欧語、厳密には北ゲルマン諸語、およびゲルマン諸語一般との比較から、アイスランド語の語彙と形態にかんする類型論的特徴の一端を明示することができた。 次に、書評「朝倉純孝『オランダ語辞典』」は、江戸時代末期から開国、明治維新を経た近代日本以降、極端にその受容度が後退したオランダ語について、2014年末に久々に刊行された本格的な蘭日辞典をめぐって、語彙、形態、音韻の面から同言語の特徴と同書の問題点を論じたものである。これは日本独文学会の学会誌「ドイツ文学」への投稿であり、その関係からドイツ語との比較を重視している。アイスランド語の動詞変化との比較にも言及しているおり、ゲルマン語全体の研究の視点からなされた論考といえる。 さらに、図書 (共著)『アイスランド・グリーンランド・北極を知るための65章』では、古ノルド語、現代アイスランド語、フェーロー語について、それぞれ「アイスランド語の歩み」「アイスランド語はどんな点でユニークか」「フェーロー語について」の3章を担当し、解説を施した。 最後に、口頭発表「北欧の言語と文化と考える」では、ヨーロッパ諸言語として例外的に中世以来の古風な文法的特徴をとどめるアイスランド語の構造的特性をドイツ語等のゲルマン諸語との比較から論評した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の「研究実績の概要」に示したように、平成26年度には当初の計画を上回る進展が見られたと考えている。一方、平成27年度では、前年度の研究テーマについての業績の公刊が時間的な制約から次年度の初頭に部分的に持ち越されることになった。同時に、平成26年度の研究テーマである「ゲルマン諸語の新造語と形態論的特徴」との関連から、「ゲルマン諸語の語彙」、「言語研究と言語擁護の歴史」という2つのテーマに発展していく必然性が生じた。上記の書評「朝倉純孝『オランダ語辞典』」および図書 (共著)『アイスランド・グリーンランド・北極を知るための65章』には、両テーマとの関連性がよく現れている。これには、「新造語」という言語政策と密接に関係する社会言語学的要因と並んで、最近のゲルマン語研究の動向と学会誌および出版社からの執筆依頼という予想しがたい事情も関係している。このため、本来、平成27年度に予定していた研究テーマは、途上段階にとどまることになり、具体的な成果として結実する時間的余裕を十分に得ることができなかった。これは当初の研究計画の部分的修正を意味する。ただし、平成26年度からの研究の関連性という点では、新たな展開の可能性を開拓したことになり、具体的業績も挙げられたことから、「おおむね順調に進展している」と評価した次第である。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究3年目にあたる今年度では、まず、上記の新たな研究テーマである「言語研究と言語擁護の歴史」をめぐって、昨年度から取り組んでいるアイスランド語研究の歴史についての論考を公刊する予定である。また、過去2年間では取り上げる機会がなかったフリジア語について、オランダの地域的公用語である西フリジア語の語彙をめぐって、論考を公刊することを目標とする。これについては、オランダのフリジア語研究の代表的学術誌である Us Wurk. Tydskrift foar frisistyk の編集委員会から、2015年末に刊行された兒玉仁士編『日本語・フリジア語辞典』(大学書林) の書評を依頼されているので、同誌をその発表の場としたい。 なお、本来、平成27年度に予定していた研究テーマ「ゲルマン諸語の枠構造のパターンと補文標識の種類について」については、平成28年度の研究テーマ「ゲルマン諸語の分離動詞の範疇設定とヴァリエーションについて」と組み合わせる形で、論文の公刊もしくは口頭発表を行いたいと考えている。この2つのテーマは、文の語順という統語論的カテゴリーにおいて相互に関連するテーマであることから、互いに矛盾することはない。 また、海外旅費を活用することによって、オランダの西フリジア語の公的研究機関であるフリスケ・アカデミー (Fryske Akademy) を訪問し、現在、計画中の西フリジア語およびオランダ語の著書の内容について研究員からレヴューを受け、インフォーマント調査と資料収集を行いたいと考えている。ただし、ゲルマン諸語の最新の関連文献の調達に予想以上の金額が必要になっていることから、予算の執行状況を十分に勘案する必要がある。
|
Causes of Carryover |
微細な金額として6円が余ったが、これ自体として有効な使用用途がないため、次年度に繰り越すことにした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
6円と微細な金額なので、適宜、物品費に追加するなどして使用する予定である。
|
Research Products
(4 results)