2016 Fiscal Year Research-status Report
言語リソースの評価からみた移動する人々の言語レパートリー変容に関する民族誌的研究
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26370474
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
村岡 英裕 千葉大学, 国際教養学部, 教授 (30271034)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 移民 / 言語使用 / 評価 / 言語管理の軌道 / 言語バイオグラフィー / 言語レパートリー / アイデンティティ / 投資 |
Outline of Annual Research Achievements |
3年目に当たる平成28年度は、昨年度に引き続き共時的調査と通時的調査を実施した。 a. 調査:(日本調査)共時的調査を2名について実施した。出身国はイランと韓国であり、それぞれ日本滞在20年と1年であった。また、通時的調査として韓国3名、ベトナム人1名について実施した。連携研究者もインタビュー調査を10名実施している。これらのインタビュー調査はすべて文字化された。(オーストラリア調査)2014年度に実施したメルボルン調査の追加調査として日本人移民・長期滞在者3名、韓国人移民・長期滞在者7名、香港人移民10名のインタビューを実施した。 b. 研究発表 (1)村岡・ファン・高編による『接触場面の言語学』を出版した。接触場面のパラダイム、種々の研究論文をまとめるとともに、最後の第5部では本研究のデータを使用してfootingと言語バイオグラフィーとの関わりを論じている。(2) 論文としては、『グローバル・コミュニケーション研究』特別号に村岡「言語使用の評価を通してみる習慣化された言語管理の軌道―言語学的エスノグラフィーと接触場面研究の親近性をめぐって」、高「日本の外国人移住者の言語環境と日本語使用における言語管理:言語バイオグラフィーの通時的・共時的語りの分析を中心に」というタイトルで執筆した。また、村岡・高(2015)では、昨年度の質問紙調査の報告をもとにしながら、データそのものをさらに分析して韓国言語研究学会の雑誌KAL(査読有り)に掲載した。さらに、村岡 「移動する人々の言語レパートリーに関する研究ノート―日本語の自己評価の語りはどのように構築されているか―」というタイトルで、調査協力者9名について評価の語りを詳細に分析した。(3)口頭発表としては、高氏が日本語教育国際研究大会、村岡と海外共同研究者の倉田尚美(モナシュ大学)が共同発表を社会言語科学会にて行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、論文執筆、書籍発行、研究発表など収集したデータの分析と解釈の結果を公表することが多くなった。他方で、調査そのものについては代表者が一時、体調を崩したこともあり、順調とは言えない。特に通時的調査を依頼していたうち、2名しか継続調査が出来なかったことが課題となる。初年度、2年目で行ったアンケートによる量的調査で示唆された、自己評価の違いによって、ホスト社会ネットワークへの参加が異なることについて、本年度では、これまで集まった事例データを概観していくことで、量的調査の結果にどのような要因が働いているかを分析した。 (1)日本語使用や日本語能力に対する自己評価(肯定的・否定的)について、肯定的評価が優勢な調査協力者の多くには、接触場面に向かう管理の原則が「成功の語り」として報告されていた。(2)肯定的評価が優勢な場合には、ホスト社会ネットワークへの参加において自分の望ましいアイデンティティが承認されていることも語られていることが多かった。また、逆に自然習得者ではネットワークへの参加に成功していることが肯定的な自己評価につながっている場合も見られた。(3)否定的評価が優勢な場合には、日本語学習や日本語習得が現在もまだ言語問題として意識されていたり、すでに投資を回避したりしている例が見られた。さらに重要なことに、彼らの場合にはホスト社会ネットワークへの参加において、望ましいアイデンティティの獲得に成功していないことも顕著であった。(5)日本社会のネットワークへの参加において、一部の調査協力者に英語の言語レパートリーが言語資本(Bourdue 1987)として利用されている場合や、英語が選択できるネットワークにおいて望ましいアイデンティティを追求する場合が見られた。(6)オーストラリア調査における日本人居住者は全員、自己評価が肯定的であり、ネットワークへの参加も成功していた。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 4年目にあたる平成29年度については、2年目に調査を行った7名に接触を試み、通時的な調査を進めていく必要がある。 2. また、オーストラリア調査の日本人、韓国人、香港人移民のデータの文字化をすすめ、日本調査との比較を試みる。 3. 本年度に分析結果としてあげた5点を中心に、自己評価の語りに見られる通時的な管理の軌道、投資、ホスト社会ネットワークへの参加、アイデンティティの獲得などの関連を精査し、事例研究から仮説作りを開始する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額として140683円が生じた。その前の年から67888円が繰り越されていたので、収入100万円のうち72795円が残ったとも言える。 その大きな理由の1つは、研究代表者が一時、入院をして体調を崩したために、データ収集に遅れが出たことによる。このため、謝金、インタビュー録音データの文字化などに予定していた金額が部分的に使用できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は予定収入が80万円であるが、そこに140683円を加えて、940683円が使用できることになる。幸い、研究代表者の健康もかなり快復しており、次年度については今年度と同様にデータ収集に重きを置いた調査計画をたてて、遅れた調査を挽回するつもりである。 具体的には(1)通時的な調査として継続してインタビューを行っている調査協力者に対する調査を10名ほど実施する予定である。(2)オーストラリア調査については、連携研究者2名ともに今年度で調査が軌道に乗ってきたため、予定されていなかったが、次年度も実施したいと考えている。(3)次年度はすでに「招待発表」として社会言語科学会での発表が決まっているが、さらに共同発表でもう1つ発表を考えており、旅費として計上する予定である。
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Research Products
(7 results)