2014 Fiscal Year Research-status Report
日本語における使役動詞の獲得過程に関する実証的研究
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26370479
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
山腰 京子 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 准教授 (20349179)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 語彙的・生産的使役動詞 / 第1言語習得 / 複文構造 / 横断的実験調査 / 真偽値判断法 / 生成文法理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は語彙的使役動詞と生産的使役動詞の違いを幼児がどの程度理解しているのかに関して、まず予備実験を行った。質疑応答法を使用し、語彙的・生産的使役動詞のペア(降ろす・降りさせる、倒す・倒させる、転がす・転がらせる)の理解について、3、4、5歳児12人に対して保育園に協力を依頼し調査を行った。その結果、語彙的使役の直接使役の意味は3歳後半で100%理解できているのに対し、生産的使役動詞の間接使役の意味は3歳児で16.7%, 4歳児で20%、5歳児でも27.3%しか大人と同様の回答を得られず、生産的使役動詞の間接使役の意味とそれに関わる複文構造の理解が5歳児でもできていないことが明らかになった。この成果を国際学会 Formal Approaches to Japanese Linguistics 7(国立国語研究所)において発表し、参加者から多くの有益な助言を得ることができた。 また日本語を母語とする子供の自然発話がデータベース化されているCHILDESデータベースを使用し、3人の子供の2歳台以降における語彙的使役動詞と生産的使役動詞の発話に関して縦断的調査を開始し、現在も継続中である。語彙的使役(他動詞)の使用は習得の初期段階から見られ、対して「させ」が付加された生産的使役動詞の発話は初期段階ではほぼ見られないことが明らかになってきているが、今後動詞の分類等に関する詳細な分析が必要であると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
幼児による語彙的・生産的使役動詞の習得に関してはこれまでの先行研究においては幼児の自然発話における報告が多かったが、実験を試みたことにより、語彙的使役動詞の直接使役の意味と単文構造の習得は3歳児でもできていることが明らかになり、それに対して生産的使役動詞の間接使役の意味と複文構造の習得は5歳児でもまだ完全ではないことを明らかにし、その成果を国際学会で発表することができた。また子供の自然発話における語彙的・生産的使役動詞の発話調査は膨大な時間が必要であるが、3人の子供の2歳台からの縦断的調査を開始することができ調査を軌道に乗せることができたため、おおむね順調に進展していると考えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の予備実験で、幼児による語彙的使役動詞の直接使役の意味と単文構造の習得よりも、生産的使役動詞の間接使役の意味と複文構造の習得が遅れることが明らかになったが、複文構造の習得により焦点を当てて実験を行っていきたいと考えている。生産的使役の複文構造の習得に関してはOkabe (2008)で実験結果が報告されているが、5歳台ではその習得がまだ十分でないようである。それに対し使役を含まない従属節を用いた複文構造の習得は3、4歳児でもできていることがOtsu(1999)等で示されているため、使役に類似する他の複文構造(例えば「~してほしい」を含む複文構造)に関しても幼児に対する実験を行いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
今年度の予算として海外の国際学会における学会発表を予定していたが、偶然に東京で開催される国際学会での発表を行うことになり、今年度海外渡航のために予定していた旅費を使用しなかったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
主に実験調査に関わる物品費と人件費に使用する予定である。
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