2015 Fiscal Year Research-status Report
日本語における再帰性―関係節・場所句の統語分析と獲得
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26370505
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
中戸 照恵 北里大学, 一般教育部, 講師 (10451783)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
磯部 美和 東京藝術大学, 言語・音声トレーニングセンター, 講師 (00449018)
稲田 俊一郎 明治薬科大学, 薬学部, 講師 (10725386)
照沼 阿貴子 大東文化大学, 文学部, 准教授 (40407648)
中島 基樹 長野県短期大学, 多文化コミュニケーション学科, 助教 (60609098)
猪熊 作巳 実践女子大学, 文学部, 講師 (90711341)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 再帰性 / 場所句 / 関係節 / 所有句 / 日本語 / 統語分析 / 言語獲得 / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本語の名詞修飾表現(「の」を含む表現と関係節)の獲得研究により「再帰性(recursion)がヒトの言語に特有であり、かつ生得的な言語能力である」という仮説を検討することである。平成27年度は次の獲得調査と統語分析を行った。 実験1 同一の構造を2つ含む文の獲得に関する構文横断的研究:所有句・場所句・関係節を2つ含む文の獲得実験を4歳~6歳児の日本語児を対象に行った。全体的に正答率が高く、4歳までには同一の構造を2つ含む文が獲得され、構文間に差異は見られないという結果を得た。しかし、場所句・関係節については、調査項目に対して子どもが与えている解釈が必ずしも一義的に「再帰的解釈」に決まらないという問題を内在しており、調査項目の再検討を課題として残した。 実験2 関係節を2つ含む文の獲得に関する追跡実験:実験1で残された関係節に関わる調査項目の再検討を行い、子どもが「再帰的解釈」を与えているか否かが一義的に定義できる項目を用いた追跡実験を行った。実験1において、4歳児で既に高い正答率が得られていたことから、対象年齢を下げ、3歳~5歳児を対象とした。現在結果を分析中である。 実験3 同一の構造を3つ~4つ含む文の獲得に関する構文横断的研究:実験1の結果を踏まえ、所有句・場所句を3つ~4つ含む文の獲得実験を4歳・5歳児を対象に行った。現在結果を分析中である。 統語分析1 日本語の名詞句に関する統語分析:日本語の名詞句内部での関係節の位置を考察するため、日本語の名詞句の下位分類について再考した。特に人称に関わる情報による統語的分布を考察し、日本語名詞句には、当該情報を担うか否かにより形態統語的な下位分類が存在することを論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の予備実験・統語分析を踏まえ、今年度7月に本実験を実施し、11月にその成果を学会発表した。 獲得調査について:昨年度残された課題の全てには取り組めなかったが、7月の本実験の結果をさらに強固なものとする追跡実験の優先度が高いと判断したためであり、研究開始当初の目的達成にとって、より有益な資料を得たといえる。また、3 つ以上の 同じ構造の繰り返しの獲得に関する予備実験を経て、本実験を行うに至っている。 統語分析について:日本語の関係節の統語分析に関して考察を進めており、来年度の発表に向けた準備をしている。関係節に対する具体的な統語分析案の考察に並行し、再帰性の獲得に関わる証拠が、どのような形で人間言語の固有的特徴としての再帰性の取り扱いに理論的帰結をもたらすかについて、先行研究の収集と考察を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
獲得調査について:本年度研究実績の実験2、実験3の結果をまとめ、国内外の学会において発表する予定である。また、7月に再度実験を行い、実験遂行過程で生じた問題や、研究開始当初に掲げた目的に関して、できる限り資料を収集し、考察を深める予定である。具体的には、実験1における2つの場所句の解釈の曖昧性について、その結果を補う実験が可能であれば実施する。さらに、研究開始当初の目的の1つでもあり、昨年度も課題として残した、「同じ構造を複数含む文(複数の場所句等)と異なる種類の構造を1つずつ含む文(場所句と関係節等)の獲得の比較」に関する実験を行う予定である。 統語分析について:当該構文の獲得に関わる実験結果を踏まえ、その理論的分析を明確にし、再帰性研究の経験的基盤を提供することが第一の目標である。加えて、より根本的なレベルにおける再帰の(不)可能性という観点から、フェイズ理論との接続を視野に考察を進める。それぞれの研究から得られた成果は、国内外の学会での発表を目指す。
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Causes of Carryover |
研究代表者は、今年度海外研究協力者との打ち合わせにいく予定をしていたが、研究協力者との日程があわず、出張を見合わせた。そのため、代表者の旅費(国外)分は次年度に使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
3月に行った2つの実験結果を国際学会に応募する予定であるため、研究分担者の旅費に充填する他、研究代表者の図書購入費・英文校閲謝金等として使用する。
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