2014 Fiscal Year Research-status Report
欧文資料Notitia Linguae Sinicaeによる清代中国語研究
Project/Area Number |
26370509
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
千葉 謙悟 中央大学, 経済学部, 准教授 (70386564)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 中国語学 / 官話 / 欧文資料 / Notitia Linguae Sinicae / Premare |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の成果は二つある。一つ目は官話研究における欧文資料を概説して、そこに占めるNotitia Linguae Sinicae(以下Notitiaと略称)の位置を示したこと。二つ目は第二部文語篇の訳注を開始したことである。 第一の成果は「欧文資料と官話音研究 ―意義・現状・課題―」として中国近世語学会において発表した。この学会発表は三つの部分より成る。第一に、16~20世紀にかけて蓄積された欧文資料を字典、文法書、教科書、宗教文書の4種に分類して概観した。第二に、官話音研究のトピックにおいて、欧文資料が重要な鍵を握っているとみなされる問題について紹介した。中でも官話音の声調調値について、17世紀初頭から100年以上は安定しているように見えるが、Notitiaを境に変化し始めているかのごとくである。このことはNotitiaの官話音研究における重要性を示すものと言えるだろう。第三に、官話音研究に欧文資料を用いる際の問題点を指摘した。すなわち各種欧文資料の間に影響関係が認められ、それを正しく把握すべきだということである。特に19世紀中盤以降はNotitiaの影印と英訳本が出版され、その影響が広まった時期である。この時代の中国語研究書にはNotitiaからの例文の引き写しが数多く見られる。 第二の成果はこれまでの第一部口語篇の訳注を継ぐものであり、第二部(Pars Secunda)の冒頭から第二章第五節「「乎hou」について」までについて日本語訳・英語版との対照・註釈を加えた。また訳注によって、第二部では荘子、論語、大学、中庸、欧陽修が多く引かれていることも明らかになった。この成果は「馬若瑟(Premare)『漢語札記 (Notitia Linguae Sinicae)』第二部訳注(I)」として『或問』 27号に掲載される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画は当初の計画よりも順調に推移していると言ってよい。 その理由は、上述した平成26年度の研究成果が27-28年度の研究計画を先取りするものだったからである。当初の計画では、平成27年度に訳注作業を開始し、平成28年度に清代官話におけるNotitiaの資料価値を検討する予定であった。しかしいずれも平成26年度中に着手することが可能となり、結果として計画を先取りする形で成果を発表することができた。これは研究計画の完成にとって有利に働くものといえるだろう。 平成28年度に行う予定であったNotitiaの位置づけについての研究は、さらに他資料との比較を進め検討を深めたい。平成27年度に行う予定であった訳注作業については、このまま全訳に向けて作業を進め、適宜発表していく。 一方で平成26年度中に行うはずであった音系の検討という課題は残されているので、これについては平成27年中に着手できるよう分析を進める予定である。また、当初プレマールが中国からパリに送った草稿を入手するため、パリ国立図書館東洋写本部および関西大学を訪れる予定であったが、それを別の方法で手に入れることができたため、平成27年度にパリを訪れる必要はなくなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は当初の計画通り訳注作業に注力したい。訳注の発表媒体はおおよそ年2回刊行される学術誌『或問』とする予定である。これは序論および口語篇の訳注を連載した雑誌であり、同じ媒体に継続して連載することが読者にとって便であると判断されるからである。また定期の連載があることにより、広く訳注の存在を知ってもらうことも期待できよう。Notitia第二部も第一部と同様、100頁を超える長篇であるが、平成27年度中は第二部第二章第六節から第十節まで、第十一節から第二章末までをそれぞれ掲載したい。むろん平成27年度以後も雑誌の刊行ペースに合わせて続編を発表する。 資料調査は、当初大英図書館に1895 年刊のNotitia第二版が所蔵されていることを確認してい るので、その複製を入手する予定であった。ただ現在滞米中であるため、まずはアメリカでの資料調査を行った上でロンドンを訪れるかどうかを判断する。いずれにせよ、1837 年の底本・プレマール自筆のNotitia草稿・そ して平成27年度入手予定の排印本第二版とを併せることで、より詳細な版本対照が可能となり、訳注の価値を高める だろう。
|
Research Products
(3 results)