2015 Fiscal Year Research-status Report
法廷での法律家の言語使用と通訳由来の言語的変容およびその影響についての研究
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26370514
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Research Institution | Kinjo Gakuin University |
Principal Investigator |
水野 真木子 金城学院大学, 文学部, 教授 (90388687)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 司法通訳 / 法廷尋問 / 法廷ディスコース |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究のテーマは裁判で法律家が被告人質問や証人尋問の際に使用する言語表現が通訳を介することによってどう変容するか分析して、その影響について検討することである。これには要通訳裁判の経験が豊富な法律実務家およびプロの法廷通訳人との協働が不可欠である。昨年度に引き続き今年度も、司法通訳問題に取り組んでいる複数の弁護士と、英語と中国語の司法通訳人との検討会を開催し、通訳の問題についてさらに議論を深めることができた。今年度は、法廷での尋問に加え、弁護人接見時の言語使用と通訳問題にも分析対象を広げ、実際の接見現場での典型的な会話の流れをシナリオの形にし、それに基づいて通訳を介することで生じる問題について議論した。 また、今年度は分析対象の言語を増やすために、上記検討会から得られた研究の結果について、経験豊富なスペイン語の司法通訳人(法言語学の研究に携わる大学教員でもある)にスペイン語の通訳に関する問題点に関してコメントしてもらった。それにより、上記2言語およびスペイン語の3言語について、法廷での尋問における言語使用の特徴と通訳を介した際の問題点についてまとめることができた。 以上の研究成果は、法言語学の国際学会であるTenth Conference on Legal Translation, Court Interpreting and Comparative Legilinguistics(6月 Adam Mickiewicz 大学、ポーランド)および2015年度法と言語学会年次大会(12月 甲南大学)で口頭発表するとともに、金城学院論集社会科学編(第12巻第2号)に論文として投稿し、掲載確定となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当研究の目的は、法廷尋問における法律家の質問形式が通訳を介することでどのように影響を受けるかを明らかにし、法律家に対して、どのような話し方をすれば発話の効果を維持でき、円滑にコミュニケーションを図れるのか、具体的に提言することである。昨年度構築した法律実務家とプロの司法通訳人との連携体制に基づき、今年度は分析対象を広げるとともに、さらに議論を深めることができたこと、そして、当研究における法律実務家たちの協力を通し、要通訳司法手続きにおけるコミュニケーションが内包する問題についての認識が法律実務家の間でさらに広がったことは、当研究の大きな成果である。 今年度は、パイロット研究としての位置づけであった昨年度の研究成果を土台に、多くの法廷質問・尋問および弁護人接見時における言語表現に焦点を当てて分析し、かなりの分量の成果物としてまとめることができ、2年目としては予定通りの成果が上げられた。 また、日本語の言い回しを訳出した英語表現について英語母語話者が持つ印象についてアンケートや法廷実験を通して検証することも予定していたが、実験を行うことはできず、数名の英語母語話者へのインタビューによってデータを得るに留まった。 研究成果については、国際学会と国内学会での口頭発表と大学論集への投稿をすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
過去2年間の研究の成果をまとめたものを法律実務家向けのガイドブックとして印刷製本し、弁護士を中心とする法律実務家と司法通訳人に配布する。その作成に当たっては、これまで協力関係にあった法律実務家や司法通訳人を中心に意見を徴収し、必要に応じてさらなる検討会を開催し、ガイドブックに盛り込む内容の修正、補充を行う。 また、当研究と同分野で法と言語の問題を研究している韓国の研究者を招き、12月に開催予定である「法と言語学会」の年次大会において、互いの研究成果を披露し、研究の次のステップに向けての議論をおこなう機会を設ける予定である。 その他の研究成果公表については、エジンバラ(イギリス)で開催されるコミュニティ通訳翻訳をテーマとする国際学会での口頭発表と、国内の関連分野の学会誌(『法と言語』第3号)への論文投稿を予定している。
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Causes of Carryover |
2016年2月27日に行われた法律実務家と司法通訳人との検討会について、予定されていた人数が集まらなかったため、3名分の謝金および交通費が余った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度、12月に開催予定の法と言語学会の年次大会に、韓国の研究者を招聘する予定であるが、その費用の一部に充当する。
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