2015 Fiscal Year Research-status Report
近世における漢文訓読と日本語意識の形成に関する研究
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26370533
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
齋藤 文俊 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (90205675)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 漢文訓読 / 日本語意識 / 日本語史 / 翻訳 / 近世 / 江戸時代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近世という、漢文訓読が大きく変化した時期において、漢文という外国語を翻訳することによって生じた日本語文章(漢文訓読文)の語法を精査するとともに、その翻訳作業によって意識化された日本語意識の形成過程を明らかにしていくものである。2年目である平成27年度は、前年度の研究実績をふまえ、基本資料の収集と整理を行うとともに、その中でも特に聖書を資料として、翻訳によって生じた日本語研究の基礎的調査を行った。その研究成果の一部は第5回外国資料研究会(愛知県立大学、2016年1月23日)にて「明治初期における聖書の翻訳と漢文訓読語法 ――「スナハチ」を例に――」という発表を行うことで公表し、同じく外国資料を調査・使用している研究者から今後の研究への示唆を得た。 具体的には、前年度の日本語学会シンポジウムの発表「明治初期における学術日本語を記す文体」では、明治初期の聖書の翻訳において、ヘボンを中心とする外国人宣教師は、「民衆に理解され」るような表現を目指していたことを「あたはず」(「不能」)などの「可能表現」を例として発表したが、今年度はそこからさらに発展させ、上記第5回外国資料研究会における発表において、ヘボン訳聖書および翻訳委員社中訳聖書では、漢訳聖書で使用されていた、「すなはち」(「則」・「乃」・「即」)などの漢文訓読独特の表現形式がほとんど見られなくなっていることを明らかにした。この成果を、さらに他の表現形式に応用していくことにより、最終年度である来年度において、近世から近代初期において、日本語意識がどのように形成されていったのかを明らかにしていくことが可能になると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目において、1件の研究発表を行うことができた。 その研究発表の内容は下記のとおりである。 明治初期の日本において聖書を翻訳する際には、既に中国において翻訳されていた「漢訳聖書」の存在が大きかった。当然日本においても、その漢訳聖書を訓読すれば、日本語訳の聖書が出来上がるわけである。しかも漢文訓読体となるため、聖書としての威厳も出る。このような威厳を重視し漢文訓読体を支持する立場(それは主として日本人補佐者の意見であった)に対し、J.C.ヘボンやS.R.ブラウンら外国人宣教師たちは、日本人の誰にでも読める文体で訳すべきだと主張したのである。 そこで、漢訳聖書で用いられた「則」「乃」「即」が、ヘボン訳の聖書、また翻訳委員社中訳の聖書の中でどのように用いられているのかを調査し、ヘボン訳、社中訳ともに、該当部分に「すなはち」が使用される例が少なくなっていること、特に「民衆に理解される」訳文を目指したヘボン訳の使用数が少ないこと、そして、社中訳はヘボン訳に比べれば多くなっているものの、「レバ則」と一般的に称されている漢文訓読独特の表現形式はほとんどみられなくなっていることを示した。 この成果をもとに、3年目においては、明治初期における日本語意識の形成過程を解明していくことが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目および2年目の成果に基づき、最終年度となる今年度は、以下の2点について推進していく。 1.この2年間の調査および発表を元に、図書館での補足調査を行うとともに、研究会を開催する。なお、資料調査については、これまでの研究活動(科学研究費補助金による研究を含む)において調査・蓄積してきた資料の補足確認が主となるが、あらたな資料を発掘するために、今年度も東京大学附属図書館・国立国会図書館、また各地の公共図書館などを調査する予定である。また、国内外の研究者を招聘して研究会を開催して情報の交換を行うとともに、3年間の研究生を公表する。 2.収集・整理した資料について、データベース入力作業を行う。この点については、漢文資料という、電子テキスト化には不向きなものであることを考慮に入れた上で、まず、OCRソフトで機械的に読みとり可能なものはそれを使用してコンピュータ入力し、テキストデータベースとして利用する。次に、漢文訓読資料については、まず返点・振り仮名・送り仮名などの情報を処理した上で、手作業で必要な語法をコンピュータ入力する。最後に、上記で作成したテキストデータをもとに、漢文訓読語法を抜き出し、本格的な「近世漢文訓読と日本語意識の形成に関するデータベース」を作成する準備をしていきたい。
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Causes of Carryover |
本研究は28年度までの継続した研究であり、また、3年目の最終年度においても、下記に示すような費用を必要とするため、次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究は、1.国内での資料調査、2.データベースの作成、3.研究会の開催、の三点が中心となるものである。 そのため、国内での資料調査については、3年目においても、本格的資料調査を行う予定であり、国内調査・研究旅費、および文献複写費を使用する。データベースの作成については、3年目から本格的に実施する予定であり、資料調査により得られた資料の入力作業のために用いるドキュメントスキャナの購入費、およびデータベース作成補助謝金を使用する。研究会の開催については、最終年度の3年目においては、研究成果の公表を目的に、国内から専門家を招聘して公開で研究会を開催するために、国内研究者招聘旅費および専門的知識の提供謝金を使用する予定である。
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