2016 Fiscal Year Research-status Report
出土資料・実用資料・美的資料を包括した平仮名史記述の総合的再構築
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26370535
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
矢田 勉 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (20262058)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 平仮名 / 文字史 / 表記史 / 出土文字資料 / 墨書土器 / 美的仮名資料 / 実用的仮名資料 / 書字能力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画の大きな柱の一つである、出土平仮名資料のデータ収集に関しては基本的な作業は既に完了しており、加えて今年度は大きな考古学的な新発見もなかったが、平仮名生成の前段階である出土万葉仮名資料に関する情報収集の補完作業は引き続き行った。また、本研究計画にとって極めて重要な資料である平安京右京三条一坊六・七町遺跡(藤原良相邸跡)出土平仮名墨書土器の文字の分析作業も継続して行った。 一方、古筆資料(美的資料)・文書資料(実用的資料)のデータ化については、前年度に引き続き、公刊資料(特に『古筆学大成』所収資料)、近畿圏所在資料を中心に進めた。 これら調査から得られた知見の一部として、日本語文字史において文字の理念的中軸を構成した楷書体漢字・いろは歌所用平仮名字体と、実際の文字運用で多用された行草書体漢字・変体仮名の関係について、今年度、「変わる文字・変わらない文字」と題して、広島大学国語教育学会において発表することを得た。ここでいう「変わる文字」が行草書体漢字・変体仮名であり、「変わらない文字」が楷書体漢字・いろは歌所用平仮名字体であるが、文字史においては音声言語史のように体系の変化の側面を描くことが史的叙述に直結するのではなく、非常に強固な保守性を有する理念的中核の部分と、社会状況に即応して変化を遂げていく実際的運用の側面の二層を区分して捉えられなければならないことを明らかにしたものである。これについては、更に情報を加えたものを『論集国語教育研究』誌に掲載する運びとなっている。さらに、本研究計画の成果を生かして、以前の口頭発表の内容を更新した「言語史叙述と文字・表記史叙述」(『日本語史叙述の方法』ひつじ書房)を公刊した。本研究計画が目指す、平仮名史の総合的な通史記述にとって、今年度は重要な理論的基盤が構築できたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
出土平仮名資料および関連する出土万葉仮名資料については基本的作業がほぼ完了している。 美的資料・実用的資料に関しては、その現存資料の分量が膨大であることもあって、網羅的データ収集はほぼ不可能であるが、平仮名通史の全体像を描くに当たっての客観性が担保されるには十分なデータは収集されつつある。 また、データの解析を進めている中で、所謂「いろは仮名」と実際に運用される変体仮名との関係性を明らかにするうえで重要な理論的基盤および、文字・表記史叙述方法の枠組みのあり方についての考察を、口頭発表・公刊論文で明らかにすることを得るなど、分析・叙述の段階の作業も順調に進展している
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は、昨年度より、本研究計画開始時点の所属機関より異動した。そのため、当初想定した、研究協力者となりうる専門領域の近い大学院学生等が近辺になかなかいない状況となった。その点に関しては、IT機器等の活用によって省力化を図ることで解消する工夫を続けていきたい。 出土資料・美的資料・実用的資料のいずれについても、データの蓄積に関しては相当の程度進展しているので、その補完作業は継続しつつも、今年度以降は、本研究計画の最終目標である、三種類の性質の異なる資料群を総合的に捉えた上での新たな平仮名史の記述に向けての作業により注力していくことになる。その過程で、本年度、いろは仮名とその他の変体仮名との関係性について新たに得た知見を公にしたように、総合的叙述の構成要素となるべき新たな知見がまとまり次第、積極的に公表し、外部研究者等の意見も積極的に聴取することとしたい。
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Causes of Carryover |
次年度に、データ集積の効率化のため、画像処理に使用するコンピュータ関連機器を購入する予定であり、その一部に充てるため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
画像データの処理等に使用する画像処理に関連する機器の購入に充てる。
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