2014 Fiscal Year Research-status Report
日本語分析での効果的な正用例文利用を支える例文情報抽象化技術とメタ言語技術の研究
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26370601
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
坂口 和寛 信州大学, 学術研究院人文科学系, 准教授 (70303485)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 例文分析 / 正用文 / 映像化ストラテジー / 日本語分析ストラテジー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、日本語教育経験がない日本人大学生40名の協力を得て、無意識的な例文分析において日本語母語話者が正用文について説明する事がらの特徴を探った。大学生には表現形式「~きり」「~だけに」に関する正用文を2文ずつ提示し、各文が表している事がらを自由に記述するよう求めた。表現形式とその例文は、例文を重視している日本語教育用参考書から選定した。大学生が調査用紙に記述した例文分析内容から、正用文について言及された事象の特徴整理を試みた結果、言語化された事がらの多様さが窺える。例文が示す事がらや表現形式に関わる例文の指示内容が、必ずしも十分に言語化されるわけではない。正用文分析の焦点を指示内容に向けさせる必要性が認められる。 また、正用文から直感的に想起した視覚的イメージを言語化する「映像化ストラテジー」について、正用文を効果的に分析するための運用手続きを探った。具体的には、日本語教育経験のある日本語母語話者が、映像化ストラテジーで正用文から想起し言語化する映像の特徴を探った。過去の調査で得た日本語教育経験者3名のプロトコルデータを再分析した結果、当該ストラテジーを用いた例文分析では、例文が示すできごとや行為、発話を取り巻く場面的文脈が中心的に描写される傾向がある。加えて、背景的事象や心理的側面などの抽象的事象も言語化される。映像化ストラテジーでの正用文分析については、例文の内容や言語要素を基盤に例文に示されていない関連事象が派生的かつ拡大的に想起され、シーンやストーリーとして映像が描写されるという手続きが把握できた。本年度の調査と分析を通じて、映像化ストラテジーによる意識的な例文分析と対比しつつ、日本語母語話者の例文分析に関する初期状態を把握することを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2014年度は、日本人大学生40名の協力を得て、正用文分析の結果を記述データとして得ることができた。そしてそのデータを基に、日本語分析技術の熟達度が低い日本語母語話者が正用文分析で例文について説明し言及する事柄を探ることができた。また、正用文から効果的に情報を得る手立てとして本研究者が提案する「映像化ストラテジー」に焦点を当て、これまでに収集したプロトコルデータを再分析し、日本語教育経験者の正用文分析過程を観察した。そして、当該ストラテジーでの例文分析によって言語化される事がらの特徴を把握した。この成果は、非教師の日本語母語話者が行う無意識的な正用文分析について、その特徴を把握する足がかりとなる。一方で、日本人大学生の正用文分析については、記述内容の特徴整理にとどまっており、メタ言語の観点からの分析や検討が現時点では十分にできていない。この点について、収集した正用文分析の記述データを精査することに加え、さらにデータを収集する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
語彙や表現形式を扱った日本語教育用参考書をさらにサーベイし、正用文分析でのメタ言語使用を探るのに適した日本語項目とその正用文を選定する。特に、例文を重視して正用文を数多く提示する参考書を対象とする。例文に用いられる言語項目には、他形式との類義関係が問題となり、意味特徴の明確な説明が困難な語彙や表現形式を取り上げる。 また、日本語分析技術の熟達度が低い日本語母語話者への調査を継続して正用文分析例を収集し、正用文分析での説明内容や言語形式の特徴を探る。これまでは正用文分析にのみ焦点化してきたが、2015年度には正用文に用いられた語彙や表現形式の言語的特徴の分析も調査では日本語母語話者に課すこととする。以上の手続きにより、言語化される事がらと用いられる言語形式の両面から、正用文分析の実像を明らかにする。さらに、正用文分析の内容および言語形式と、言語分析の成否との関係性を探ることで、日本語分析に資する正用文分析のタイプや特質を明らかにすることを目指す。
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Causes of Carryover |
2014年度は、当初に見込んでいた予算額よりも、安価な物品等の購入や金額の小さい謝金支出で研究が遂行できた。そのため、助成金の使用額が大きくならなかった。また、文献調査や大学生への調査を進めるなかで、研究目的に適した形でのデータ分析には、2015年度以降にテキストマイニング用ソフトウェアが必要となると判断した。以上のことから、助成金を次年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
文献資料の収集や専門的知識の提供を受けるために旅費を用いるほか、日本語母語話者への調査を行うにあたって必要な消耗品や、調査実施後のデータ整理に必要な情報機器やソフトウェアなどの備品や消耗品の準備に物品費を用いる。また、データ作成にあたってアルバイトを雇用するほか、データ分析に際しては専門知識の提供を受けるために謝金を用いる計画である。
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Research Products
(1 results)