2015 Fiscal Year Research-status Report
日本語分析での効果的な正用例文利用を支える例文情報抽象化技術とメタ言語技術の研究
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26370601
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
坂口 和寛 信州大学, 学術研究院人文科学系, 准教授 (70303485)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 例文分析 / 正用文 / 類義語 / 意味分析 / テキストマイニング |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、「映像化ストラテジー」による意識的な例文分析を観察した前年度の成果をふまえ、日本語母語話者の自然で無意識的な例文分析に焦点を当てた。日本語教育経験のない日本人大学生32名に調査を行い、テキストマイニングの手法により日本語表現に着目し、例文分析で言語化される事がらの特徴と、類義表現分析の成否との関係性を探った。調査では、上級日本語指導で多く扱われる類義表現「~っぱなし」「まま」の正用例文を分析する課題と、両表現の言語的特徴を分析する課題を実施した。例文分析課題では、類義表現対の4例文(各表現に2例文ずつ)について分析し、各文の表わす内容を自由に説明する。例文は、日本語学習者用教材から無作為に選定した。例文分析課題の終了後に、「っぱなし」「まま」の弁別的な言語特徴を説明する。 例文分析課題の記述データは、テキストデータ分析ソフト「WordMiner」(日本電子計算株式会社)によりテキストマイニングを行った。本年度は、例文分析に用いられた言語要素を抽出して頻度分析を行った。また、類義表現分析課題で得たデータは日本語教育経験者2名が記述内容を評価し、調査協力者を評価上位群と下位群とに分けた。そして、各群の調査協力者の例文分析に見られる言語要素とその頻度から、例文分析の特徴と相違点を探った。結果、上位群は例文が表す事態や行為を具体的に描写する言語要素や、事態や行為を取り巻く文脈的事象を描写する言語要素の使用頻度が相対的に高かった。例文に直接的に示されていない事象への言及も含め、情景描写を積極的に行う傾向が上位群には窺える。一方の下位群では、抽象的な言語要素の使用が目立ち、例文が表す事態や行為を活写する姿勢が弱い。また、文法的特徴を示すメタ言語も目立ち、例文分析において、例文内容だけでなく類義表現対や例文自体の言語的特徴に着目する傾向が指摘できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度は、日本人大学生32名の協力を得て、前年度と異なる類義表現対とその正用文についての分析データを新たに得た。また、正用文から効果的に情報を得る手だてとして本研究者が提案する「映像化ストラテジー」の意識化と使用を促さず、無意識的で自然な形での例文分析とその結果に焦点化した。例文分析とそれをふまえた類義表現分析での記述内容はテキストマイニングの手法を用いて分析し、日本語分析技術の熟達度が低い日本語母語話者による正用文分析を日本語表現の点から観察した。その際、類義表現対の分析内容から調査協力者を上位群と下位群に分けることにより、テキストマイニングでの頻度分析で把握できた例文分析内容の特徴と、類義表現分析の成否とを関係づけ、正用文分析で言語化される事がらの特徴と傾向の整理を目指した。一方で、調査協力者数が少ないために正用文分析の記述内容の特徴整理に不十分さを残したほか、例文分析と類義表現分析それぞれのメタ言語使用の関係性や特徴の把握にも現時点では不十分さを残した。
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Strategy for Future Research Activity |
第二言語での言語的指導の文献や日本語教師用参考書のサーベイを進め、本研究で得られる日本語母語話者の正用文分析の妥当性を探る。また、日本語分析技術の熟達度が低い日本語母語話者への調査を継続し、正用文分析とそれをふまえた日本語分析のテキストデータをさらに得る。本年度と同じ類義表現対だけでなく、他の類義表現対とその正用文も用いて調査を実施する。そうしたデータを基に正用文分析での説明内容や言語形式に関する特徴整理を進めるが、類義表現分析のテキストデータもテキストマイニングの手法で分析する。以上の手続きにより、例文分析とそれをふまえた言語特徴分析それぞれの内容とメタ言語使用を精査し、本年度に把握した例文分析でのメタ言語の特徴と、類義表現分析でのメタ言語との関係性や特徴を把握する。さらに、言語分析の成否と例文分析との関係性を探り、正用文分析が類義表現分析に利用されるプロセスと、日本語分析に資する正用文分析手続きの特質を明らかにすることを目指す。
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Causes of Carryover |
2015年度は、当初に見込んでいた予算額よりも、安価な物品等の購入や金額の小さい謝金支出で研究に遂行できた。そのため、助成金の使用額が大きくならなかった。また、文献調査や大学生への調査を進めるなかで、研究目的に適した形でのデータ分析には、2016年度以降に情報機器やソフトウェアが必要になると判断した。以上のことから、助成金を次年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度請求額とともに、文献資料の収集や専門的知識の提供をうけるために旅費を用いるほか、日本語母語話者への調査を行うにあたって必要な消耗品や、調査実施後のデータ整理に必要な情報機器やソフトウェアなどの備品や消耗品の準備に物品等を用いる。また、データ作成にあたってアルバイトを雇用するほか、データ分析に関しては専門知識の提供を受けるために謝金を用いる計画である。
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