2015 Fiscal Year Research-status Report
異文化間理解のための映像作品の文化的要素に関する理論的・実証的研究
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26370615
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
保坂 敏子 日本大学, 大学院総合社会情報研究科, 教授 (00409137)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 異文化間理解 / 異文化間コミュニケーション / 映像作品 / 文化的要素 / 文化認識 / 翻訳論 / 国際研究者交流(ベルギー、スペイン他) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、異文化間理解や相互理解が日本語教育の主要な目的だと考える立場から、言語と文化を融合した言語文化教育に資するために、日本の映画やドラマなどの映像作品の中に意識的・無意識的に埋め込まれた文化的要素について理論的・実証的に明らかにすることを目的とする。具体的には、(1)異文化間理解教育で用いられる「文化」の枠組みを基に映像作品の文化的要素を体系的に分析する、(2)映像作品の文化的要素「日本文化なるもの」に対する国内外の教師や学習者の認識を調査し、その認識の様相を明らかにするという方法で理論的・実証的検証を試みる。2年目の平成27年度には、以下のとおり調査研究を行った。
1.国内外の教師・学習者に対する文化認識の調査(何を「日本文化なるもの」と認識するか):①映画『ステキな金縛り』に対する文化認識の調査(アンケート:日本、ベルギー、スペイン、アメリカ)、②映画『ビリギャル』に対する文化認識の調査(講演を通して:韓国) 2.映像作品のシナリオにおける翻訳不可能な要素に関する調査(翻訳できないものはどのような要素か):①映画『ステキな金縛り』のシナリオに対する国内外の教師・学習者の認識の調査(日本、日本、ベルギー、スペイン、アメリカ)、②映画『踊る大捜査線 The Movie』の日本語のシナリオと英語字幕の比較分析
1の調査については4か国で約10名のデータを収集した。2の①調査も日本、ベルギー、スペインでそれぞれ約10 名、アメリカで2 名の協力が得られた。収集したデータは逐次分析を進めており、国・言語を超えた文化認識の様相の実態を明らかにできるものと思われる。2の②については、分析の結果を論文で公開した。さらに「第8回全ウクライナ国際公開シンポジウム2016」に招聘を受け、本研究テーマで基調講演を行った。また、韓国仁川大学でに同様のテーマで講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、前掲の研究目的を達成するために、平成26~28年度の各年度にそれぞれ以下の目標を設定している。 平成26年度:①異文化間理解・翻訳論の枠組みによる文化的要素の分析、②国内の教師・学習者の文化認識調査、③映像を使った教育における文化の扱いに関する文献調査 平成27年度:①国内の教師・学習者の文化認識調査の分析、②海外の教師・学習者の文化認知調査、③成果の公開 平成28年度:①海外の教師・学習者の文化的認識調査の分析、②成果の公開
平成27年度の①については、調査結果を学会で発表し、論文という形で成果を公開した。また、前年の平成26年度①「翻訳論」による分析についても論文にまとめて、成果を公開した。平成27年度の②については、海外研究協力者を通じて、ベルギー、スペイン、アメリカで調査が実施できた。アメリカでは教師へのインタビューを想定していたが、学生の協力も得られるととなり、他の場所と同じようにアンケート調査を実施した。韓国では、本研究のテーマで講演と授業のデモンストレーションを行う機会を得たが、その際、文化認識に関するデータが収集できた。このように昨年度の予定を変更した点もあったが、予定より量的・質的に厚みのあるデータが収集できた。よって、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の平成28年度の目標は、①国内外の教師・学習者の文化的認識調査の分析、②成果の公開であったが、本研究のテーマでウクライナで講演を行ったところ、研究協力が得られることとなり、①の調査を平成28年度初めまで継続して実施することとした。これを踏まえ、平成28年度は以下のとおり進めていく予定である。 1.国内外の教師と学習者の映像作品の文化的要素に関する認識調査の継続と分析(4月~8月):①アンケート調査、②収集した全調査データの分析(データを分析して、国別、属性別等で比較:海外研究協力者との共同研究として) 2.研究成果の発表(5月~年度末) アンケート調査はウクライナで4~5月にかけて実施する。7月末までは国内でも引き続き実施する。収集したデータについては、収集に協力した海外研究協力者との共同作業で分析を行い、その成果を発表する予定である。研究成果の発表は、5月に上海の同済大学で開催される学会で、6月に日本の異文化間教育学会で、8月にハワイ大学ヒロ校で開催される「東アジア日本語教育・日本文化研究国際学術大会」で行うことが決定している。また、分析を行っている海外研究協力者と一緒に学会発表の申請を予定している。 今年度の研究メンバーとその役割は以下のとおりである。 <研究代表者>保坂敏子(日本大学大学院):研究の総括、調査、分析、発表 <研究協力者>長谷川恒雄(慶應義塾大学名誉教授)/柴田敦子(拓殖大学)/伊藤誓子(埼玉大学)/中村愛(慶應義塾大学):調査データの分析と専門的知識の供与 <海外研究協力者>櫻井直子(ベルギー、ルーバンカトリック大学)/鈴木裕子(スペイン、マドリードコンプルテンセ大学)/ブラッドリー・ウィルソン(アメリカ、アリゾナ州立大学)/森田淳子(ウクライナ、キエフ国立大学)/小林亜希子(ウクライナ、キエフ言語大学):海外調査の実施、分析、発表
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Causes of Carryover |
平成27年度研究費の牛708,614円が次年度繰越となった。主な理由は、海外研究協力者がそれぞれ私費で日本に帰国していた際に調査の打ち合わせを行うことができ、調査の実施も一任できることとなり、ベルギーとスペインに調査の打ち合わせと実施に行く必要がなくなったことが挙げられる。また、本研究テーマをウクライナで発表した際も、基調講演者として招聘を受けたため、旅費の必要がなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度の平成28年度は、平成27年度の繰り越し分と合わせて、以下のとおり研究費を使用する予定である。
【物品費:図書、消耗品】調査用の資料である映像作品のDVD、調査分析の参考図書、研究遂行に必要な文房具を購入する。 【国内旅費】愛媛で開催される日本語教育学会秋季大会や他の学会に研究成果発表のため研究協力者と参加する。 【海外旅費】8月にハワイで開催される学会で成果発表を行う。また、ベルギー、スペイン、アメリカから海外研究協力者を招き、本研究の成果発表として、学会発表(採択されなければ、シンポジウムの開催)を行う。 【謝金】データの分析と検証における専門的知識の供与に対する謝金を支払う。また、調査協力者に謝品を渡す。 【その他】調査材料を海外に送る費用、学会参加費用、学会発表に採択されなかった場合のシンポジウム開催費用が必要となる。シンポジウム開催になった場合は調整を行う。
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