2016 Fiscal Year Research-status Report
異文化間理解のための映像作品の文化的要素に関する理論的・実証的研究
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26370615
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
保坂 敏子 日本大学, 大学院総合社会情報研究科, 教授 (00409137)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 映像作品 / 異文化間理解 / 異文化間コミュニケーション / 文化的要素 / 文化認識 / 翻訳論 / 国際研究者交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、異文化間理解や相互理解が日本語教育の主要な目的だと考える立場から、言語と文化を融合する言語文化教育に資するために、日本の映画やドラマなどの映像作品の中に意識的・無意識的に埋め込まれた文化的要素について理論的・実証的に明らかにすることを目的とする。具体的には、(1)異文化間理解教育で用いられる「文化」の枠組みに基づき、映像作品から読み取れる文化的要素を体系的に分析する、(2)映像作品の文化的要素「日本文化なるもの」に対する国内外の教師や学習者の認識を調査し、文化認識の様相を分析する、という方法で理論的・実証的な検証を試みる。3年目の平成28年度は、以下のとおり調査研究を進めた。 1.①国内外の教師・学習者の文化認識調査、および、②シナリオの翻訳不可能な要素に関する調査(昨年度からの継続):映画『ステキな金縛り』を対象に実施した。(日本5名、ウクライナ18名) 2.調査データの分析(昨年度からの継続):収集したデータについて、海外研究協力者と分析方法を検討し、分析用データベースの作成して、分析を進めた。 3.著作権に関する認識調査:著作権セミナーを実施し、映像作品の教育利用等で求められる著作権への認識について調査した。 4.研究成果の発表:昨年度・今年度の調査の分析結果について、異文化間教育学会(6月、東京)、東アジア日本語教育・日本文化研究学会(8月、ハワイ)、日本語教育学会関西地区研究集会(3月、大阪)で発表を行った。また、研究内容について、九州人類学研究会のパネルディスカッションで発表と討論を行った。さらに、本研究の成果を基に、3月に韓国の新羅大学(釜山)で講演会を、仁川大学(仁川)で2つのワークショップを実施した。 本研究により、「日本文化なるもの」に対する文化認識は、国籍や言語の境を超えて多様性、多層性、混淆性に富むことを実証的に明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では平成26年度~28年度の各年度において、それぞれ以下の目標を設定していた。 平成26年度:①異文化間理解・翻訳論の枠組みによる映像作品の文化的要素の分析、②国内の教師・学習者の文化認識調査、③映像を使った教育における文化の扱いに関する文献調査 平成27年度:①国内の教師・学習者の文化認識調査の分析、②海外の教師・学習者の文化認識調査、③成果の公開 平成28年度:①海外の教師・学習者の文化認識調査の分析、③成果の公開
平成26年度の①「翻訳論」での分析と平成27年度の①の国内調査、②の海外調査の一部については、予定通り、分析結果を論文にまとめたり、学会で発表することができた。しかし、平成27年度にベルギー、スペイン、アメリカで行った②の海外調査について、平成28年度にウクライナでも調査協力が得られることとなり、調査が平成28年度7月初めまで続いたため、全体のデータを分析する時期が遅くなった。また、各国の調査協力者は総計で61名となり、調査データが予想よりはるかに超えた量となり、分析を開始してみたところ、量だけでなく、内容も多岐にわたっていたため、分析作業に時間がかかることが分かった。分析作業は、海外研究協力者と共同で行うことになっていたので、効率的、かつ、緻密な分析作業が共同で行えるように、分析用のデータベースを構築することとし、業者に作成を依頼した。このような状況で、海外研究協力者とのデータの分析作業が遅くなり、本研究は、やや遅れている状態となった。これを踏まえ、補助事業期間の延長を申請し、承認を得ることができた。できるだけ早く分析作業を終わらせる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究については、前述の通り、海外で収集したデータの全体的な分析がまだ十分に終わっていないが、延長しているその部分を含め、以下のように今後の展開していくことを想定している。 1.文化認識に関する調査結果の分析と成果発表:①文化認識の調査の全体分析、②国別や母語など学習者の属性別に分けて分析、③文化のカテゴリーごとの分析 →多様な文化認識は属性によって傾向があるのか、何を文化とするかの視点によって傾向があるのかなどを明らかにする。また、今回のアンケート調査だけでは解釈できない点は、今後インタビュー調査も実施する。その結果を、学会や論文で発表する。 2.シナリオの翻訳不可能な要素の調査の分析: 今回の分析結果を基に、他の映像作品(映画、ドラマ、アニメ)についてもオリジナルの日本語のセリフと字幕翻訳を比較分析して、翻訳できない要素から、文化的要素のの問題を検討する(この部分については、平成29年度~平成31年度の基盤研究(C)「映像作品の字幕翻訳に関する研究 -異文化間理解重視の言語文化教育のために-」で継続する) 3.映像作品から読み取られる「日本語・日本文化」に関する情報提供、交流のできるサイトの構築:今回調査した情報、つまり、映像作品の中で自分が「日本文なるもの」と認識したものの情報は、それぞれが思い描く「日本文化」は異なり、その様相が多様で、他者がかなりずしも自分と同じ認識をも高いことを知るためのリソースとなるものである。お互いの文化認識を開陳し、相互交流させる場所があれば、異文化間理解の一助となると考えられる。その考えから、Web上に情報交流の場を構築する予定である。また、そこに今回の論文や学会発表の予稿集の原稿などを研究成果として併せて掲載する予定である。
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Causes of Carryover |
当初は、最終年度の平成28年度には本研究プロジェクトの成果発表として、海外研究協力者と共に日本語教育学会の大会のパネルディスカッションに応募する、あるいは、本プロジェクトのシンポジウムを開催するという予定を立てており、そのために、海外研究協力者を招聘する予定であった。しかし、前述の通り、調査データの収集と分析が予定より遅くなり、これが実現できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
残った研究費は研究成果の発表のために使用する。分析結果がまとまった時点で逐次学会の発表や学会誌への論文の投稿を行う。また、当初はシンポジウム等に海外研究協力者を招聘する予定であったが、日程的に実現が難しいので、本プロジェクト専用のWebサイトを作成し、研究成果を公開すると共に、本研究で収集したような映像作品に対する「日本文化なるもの」の認識を自由に書き込んで交流する場を構築する。ここで公開するのは本研究の論文や予稿集の原稿のみで、文化認識については新たにこのサイトで集積する。蓄積されるデータは、多様な文化背景の人々の分散知を集積したものとなり、互いの学び合いのリソースになることが期待される。本研究はこのサイトによりさらなる発展ができるものと考える。なお、研究費の使用内訳は以下のとおりである。
【旅費】国内外の学会参加・発表 【その他】WEBサイト構築、学会参加、論文投稿費用
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