2015 Fiscal Year Research-status Report
個々の学習者タイプに応じたボトムアップ処理の効率化に関する研究
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26370628
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
森 千鶴 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (50210125)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | リーディング / スペリング / 音読速度 / 書き写しスパン / ディコーディング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は英語教育における課題であるボトムアップ処理の効率化について追究するものである。その方策として「音読」と「書き写し」の基礎的研究を行う。学習者タイプとしては、読解力とスペリング能力に極端な不均衡がある学習者(R+S-とR-S+)に注目した。 昨年度まで特に音読の研究を行い、R+S+, R+S-, R-S+, R-S-の4タイプでは、同一教材の7回の音読において、次のことが明らかになった。R+S+が音読速度のプラトーに達した2回目の音読速度は123.63wpmであったが、その速度にほかの3タイプが追いつくのは、R+S-が4回目、R-S+は3回目、R-S-は6回目にもう一度伸びた時点でも追いついていなかった。このことより、R+S-タイプは4回、R-S+タイプは3回繰り返して同一教材を音読すればおおむねR+S+の流暢さに達することが分かった。 そこで、次の「書き写し」の研究においては、まず教材内容を理解させ4回繰り返して音読させたあと、「書き写し」を行わせることとした。音声面でのボトムアップ処理をある程度自動化しておいたほうが、書き言葉への効果が大きいと期待されたからである。新たな被験者(大学1年生、非英語専攻)42名に対して、リーディング・テストとスペリング・テストを実施し、R+S+3名、R+S-3名、R-S+3名、R-S-3名を特定した。さらに個別に呼び出して、教材(Arab Gift Giving)の内容理解→音読(4回)→82wordsの文を3回繰り返して書き写すという手順で書き写しスパンと書き写しスピードを測定した。書き写しスパンに関しては、リーディング能力よりも、スペリング能力との相関が高いことが明らかになった。しかし、そのスペリング能力と書き写しスパンの相関の強さは、1回目が一番強く、回を重ねるごとに関係性が弱くなることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
R+S+, R+S-, R-S+, R-S-の4タイプが7回繰り返して音読を行った場合の、音読速度の推移は明らかになり、またR+S-, R-S+が何回繰り返して音読すればR+S+に追いつくのかはある程度明らかになった。(R+S-が4回、R-S+が3回である。)しかし、R-S-については、7回繰り返しても追いつかず、その原因については課題が残った。教育的な示唆を考えるなら、R-S-への対処こそが研究の要所であるともいえる。そこでもう少し詳しく分析する必要を感じ、音声分析ソフトPraatを用いて、各4タイプの単語ごとの音読速度や、ポーズの長さを測定することとした。それぞれのタイプが、繰り返して音読していくうちに、どの部分が改善し、ボトムアップ処理の効率化に貢献しているのかを明らかにするためである。(たとえば単語そのものの音読速度、ポーズを置く箇所、ポーズの長さなど)。そのうえでR+S-とR-S-を比べることにより、またR-S+とR-S-を比べることにより、R-S-への指導の方策もみえてくるのではないかと考えた。こうした詳細な分析は当初は予定していなかったので、全体の進捗に遅れが発生していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究ではボトムアップ処理の効率化を促す方策として、「音読」と「書き写し」を取り上げ、それぞれ複数回繰り返して行わせ、回数を重ねるごとにどのような効率化が起こるのかを検証しようとしている。「音読」においては、回数のみならず、それぞれのタイプの音読特徴をより明確にするため、Praatを用いた音声分析を継続して行うこととする。また「書き写し」については、少なくとも1回目の書き写しスパンにおいては、リーディング能力よりもむしろスペリング能力と相関があることが明らかになった。しかし、その相関の強さは書き写しを2回、3回と続けるうちに弱まる傾向にある。今後は2回目の書き写しから、リーディング能力がどのように関係してくるのかを、明らかにする必要がある。また、当初の計画どおり、R+S-, R-S+さらにR-S-にとっての適正な書き写し回数を特定する必要がある。 それらを明らかにしたうえで、大学生のR+S+, R+S-, R-S+, R-S-に対して、それぞれのタイプに有効であると思われる音読と書き写しの回数を設定し、ある程度の期間にわたって練習させ、音読力と書き写しの伸びが読解力に及ぼす影響を検証する。その際、少なくとも2グループを設定し、1グループには音読と書き写しを授業内で実施し、もう1グループには授業外の課題として音読と書き写しを与え、それぞれの効果を検証する。また、これまでの研究により、R-S-には、R+S-やR-S+とは異なる指導をする必要性があると思われ、そうしたタイプに対する補充教育(レメディアル)としての音読と書き写しの手法も考察の範囲に入れる予定である。
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Causes of Carryover |
物品費のうち、ICレコーダーとビデオカメラは、たまたま別の研究内容で与えられた学内予算からそれぞれ数台購入することができたため、本研究に必要なビデオカメラや、人数分すべてのICレコーダーを購入する必要がなくなった。また出張等については、近県の熊本学園大学(熊本県)で全国学会が開かれたため、金額的に低く抑えることができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
学術雑誌も含む学術図書にかなりの額を費やす予定である。また研究の途上で、新たな課題も見えてきたため、資料収集の出張にも費やす予定である。
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Research Products
(1 results)