2015 Fiscal Year Research-status Report
母音空間視覚化による英語音声分析力と学習への応用研究
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26370655
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
冨田 かおる 山形大学, 人文学部, 教授 (00227620)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 発音 / フォルマント / 母音 |
Outline of Annual Research Achievements |
母音は口の開き具合と舌の盛り上がる部分の位置によってその種類が決定される。日本語の5母音やアメリカ英語の11母音は、方言や個人の特徴により実際の発音は様々ではあるが、基本的な要因の組み合わせにより、各母音として認識出来る。母音特徴を構成する要因のうち、フォルマント1とフォルマント2で表される数値は、それぞれ口の開きと舌の形に相当し、発声器官の状態を物理的な数値で置き換える事が出来る。そして、この要因を2次元空間で示す事により、母音空間の概念が形成される。 母音空間を視覚化し、発音訓練に取り入れ、その効果を基に、学習者の英語音声分析力について調べる事が本研究の目的である。即興発話録音と発話分析を進める中で、授業での各受講者の発音の分析をコンピュータに全てまかせるのではなく、一部学習者自身が行う方法を取り入れる事で、昨年度、意外な発見があった事を受けて、引き続き、学習者の分析能力を高める方法について探求した。 英語母音7種を含む単語セットの発音を録音し、Praatを用いてフォルマント1とフォルマント2を測定し、それらを紙と鉛筆を用いてなぞる方法で、母音空間における英語母語話者と日本人英語学習者の母音の特徴を、学習者個人が比較し、その結果を文章でまとめる方法を続けた。学習者は自己の発音について視覚化されたものを見るのがめずらしく、良し悪しを含めて興味を示す事が多かった。 発音器官は常に動いており、その変化を見ながら自己の発音の状態を判断する事は容易ではない。多くの変化の状態を敢えて紙上の2次元で表す事でより分かりやすくなるのではないかという考えから、母音空間の3次元表示や、動画により時間変数を加えた表示との比較を今年は試みた。結果、次元や時間変数の有無が発音の視覚化に及ぼす影響を追求する事も大切であるが、寧ろ、学習者の分析力を刺激する方法としての要因分析が重要である事が分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
母音空間に関して、英語母語話者と日本人英語学習者から単語セットの録音を得て、その音声分析を継続して行った。この点については順調に進展していると言える。 母音空間を用いた発音訓練を行い、学習者から自己の発音についてと視覚化の方法についての意見を継続して収集した。この点についても順調に進展していると言える。 母音空間視覚化について、2次元での表示と3次元、4次元での表示についての比較実験を行い、効果の度合いを調査する事に関しては、文献調査に留まっており、調査実験にまで及んでいない。この点についてはあまり順調に進展しているとは言えない。ただ、比較実験を行う前に、さらに文献調査により予測の整理を行いたいと考えている。 本年度の情報収集を基にした判断では、紙上に書かれた母音空間という2次元情報が、学習者が自己の発音について考える手段として思いのほか効果が高いことから、高次元の表示や動画による提示よりも情報が扱い安いことを比較実験で調べる予定であったが、むしろ、次元の度合いや静止画と動画の比較よりも、学習者の分析能力を刺激する方法を追求する事が重要であることが分かってきた。例えば、空間に存在する形とその動きについては、認知的には深い関係があるとは言えず、人間による処理も異なったものであるのに対し、形と、そこから連想する音とは認知的に深い関係があり、視覚と聴覚という異なった経路を取るにもかかわらず、人間による処理が似通っているという既存の研究結果がある。視覚を通して得られる母音空間と聴覚を通して得られる母音の特徴の結びつきについてさらに文献調査を続ける予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
母音空間を用いて、視覚化母音の分析的プロセスと母音の聴覚による処理との関連を文献調査によりさらに追求予定である。両者の繋がりの強さについては、前年までの文献調査で明確になりつつあるが、視覚処理と聴覚処理のそれぞれの働きについてさらに専門的知識を得て、考えを整理するつもりである。 紙上に学習者個人の母音空間を自ら書き込む事で、自己の発音を分析的に観察出来、また、その方法に興味を示すことが、学習者対象調査から明らかになりつつあり、その背景にある理由を探っている段階であると言える。現象が先にあり、その理由付けを後から行っているという形である。 視覚と聴覚との関係についての研究では、認知心理学、神経生理学、聴覚音声学の多岐に及ぶ分野を総合し、かつ言語教育学への応用を試みる必要が有り、今後もこれらの分野の文献調査を進める。それに加え、当初計画に挙げた、視覚と音声の文化史、言語音の普遍性と文化的特徴についても文献調査を進める予定である。 視覚と聴覚を融合する手法は本研究の中心課題であり、今まで行ってきた方法に加え新しい方法を模索し、かつ、モデル化の手法についての知識と情報を引き続き得る予定である。研究成果の中間発表として国際学会での口頭発表を予定しており、会場からの意見や助言や得られる情報を総合して視覚と聴覚との関係について思考を深めていきたいと考えている。
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Research Products
(3 results)