2015 Fiscal Year Research-status Report
多言語社会日本に向けて:外国人住民支援の実態把握を背景とした言語支援推進と普及策
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26370740
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
斎藤 早苗 東海大学, 文学部, 教授 (80298075)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高垣 俊之 尾道市立大学, 芸術文化学部, 教授 (60226743)
Carolyn Wright 京都光華女子大学, 人文学部, 教授 (60329943)
木村 麻衣子 武庫川女子大学短期大学部, 共通教育科, 准教授 (30290414)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | multililngual society / multiculture / language support / foreign residents / co-living / language policy / Easy English / Easy Japanese |
Outline of Annual Research Achievements |
はじめに、二つの国際学会において、これまでの研究成果についての中間報告を行ったことが挙げられる。ひとつは、オーストラリアのLa Trobe Universityで開催された学会である。本報告では京都での現地調査の結果に焦点を当て、多言語支援の実態と「平易な英語と日本語」の有用性について述べた。二つ目は、London Universityで行われた学会での発表である。この発表では、東京都の異なる区の行政が提供しているガイドブックやホームページに見る言語支援の現状を示した。多文化共生社会を目指すという観点から、主に非英米人を対象とした「やさしい英語」による日常生活の言語支援の一案を提言した。これら二つの発表により、他国からの意見や質問を通し、多角度から言語支援の在り方を検討することができ、本研究のねらいである「多文化共生」についての知見の拡充につながった。また、調査に関して、京都市の外国人住民のための言語支援として本研究が着目する「やさしい英語」促進の一案としてガイドブックの充実化に取り組んでいる。例えば、英語による生活情報や災害時関連の説明は非英語話者には高度な英語が大きな壁となり、理解の妨げとなり得る3つの要因、(1)専門用語の多使用、(2)長い文章、(3)レトリック表現に注視している。そこで、「やさしい日本語」から「やさしい英語」へ置き換えることによって理解度の向上を図り、より分かり易い情報提供を試みた。最後に、福山市で実施した現地調査結果から、2013年~2015年にベトナム人の在住人口の緩やかな増加が見られることを確認できた。検討課題は、行政による言語支援対策が中国住民などの多数派外国人住民が中心となり、現実の方が対策より先行してしまうという実情である。 このように当該年度実績を振り返り、地域の実情に応じた言語支援を展開することが要であることを再認識する事ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
進歩状況に関して、「研究実績」で既述した国際学会において発表した調査報告を熟考の上、言語支援に求められる「やさしい英語」の明確な概念を検証するため、念入りな文献研究及び現地調査を進めている。その際、本研究の主なテーマである「言語支援の普及」を考慮に入れ、京都市、津市、福山市、東京都を含むその隣接地域に見る外国人住民の人口推移に注視しながら、これまでの調査結果と今後の言語支援の在り方及び普及策の立案を検討している。もうひとつの理由は、上記各地域での調査が緩やかではあるが、着実に進行していることである。中でも京都に関して、外国人住民への言語支援はインターネットによる情報入手がこの2,3年に急速に普及されている中での翻訳ボランティア活動の活発化は注目すべき普及策の変化であると注視している。ひとつに、研究メンバーの一人による翻訳ボランティア活動がある。「やさしい日本語」を基に「やさしい英語」に置き換えた『上京区に住む外国人のためのわかりやすい生活ガイドブック』の作成に取り組み、「やさしい英語とは」について聴き取り調査を進めている。さらに、ここ数年間(2013年~2015年)の日本の外国人住民数の増加を考慮に入れると、今後も英語による相談窓口、公共の提示、教育関連情報などの言語支援の対応・普及策が急務となる。その際、利用者の多くは英米人より非英米人であるという実情に留意しなければならない。平易な英語に関して、1995年の阪神・淡路大震災を起に「やさしい日本語」による支援が進められている一方で「やさしい英語」の開発については研究の蓄積は薄い。これまでの調査から自治体側の言語支援対策は手探りの状態で対応しており、平易な英語への意識の高まりまでには至っていないことが分かる。 このように「多言語・多文化社会日本」を出発点とする本調査は外国人住民のための言語支援の普及に向けて着々と進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度は本研究の最終年度にあたる。よって、2014年~2016年の研究調査結果を総まとめし、外国人住民のための言語支援の普及策を次の3点に焦点を当て推進していく。(1)国際学会での公示: 各地域(京都府、広島県、三重県、埼玉県を含む東京)における2014年から得られた文献・現地調査結果を整理・解析し、香港での国際学会において調査の成果を報告する。(2) 普及策(平易な英語開発):「言語支援の普及」を問い直し、これまでの調査内容についての問題点を含む、言語支援対応そして普策、特に平易な英語の普及に努める。(3)分散地位での言語支援:法務省による在住外国人人口の推移報告(法務局;2014年)から、最近の外国人住民の居住動向に見る特徴の一つに集住都市ではなく、中心都市周辺の地域に分散して住むという外国人住民の動向を垣間みる。よって、広島県では福山市周辺の広島市や倉敷市、京都市周辺では奈良市、三重の津市周辺の鈴鹿市、そして、通勤面での利便性や比較的妥当な土地価格という理由で東京都に隣接する埼玉県の中核都市へ分散する外国人住民への注視。例えば、ベトナム人など緩やかな増加をたどる傾向が見られる越谷市が実践している「多文化共生社会づくり」ワークショップへの参加も研究推進に有用であると考える。ワークショップへの参加は外国人隣人と共に「共生社会づくり」をめぐる問題や対応策の検討、そして生活ガイドブックの翻訳ボランティアへの取り組みへの道しるべとなり、言語支援開発に有用となる。 上記3点に着目し、多言語・多文化社会における言語支援の充実化に向けて何らかの形で貢献していきたい。最終的に本研究の集大成として、これまでの現地調査から得られた現状の把握といかに外国人住民に言語支援を広く提供することができるかについてを平易な言語による言語支援の普及策についての提言を含む調査報告書を作成していく。
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Causes of Carryover |
最終年度にあたる平成28年度で使用する経費を考慮に使用の計画をしていく必要性があることから、次年度での使用額が発生した。主に次の3つの理由がある。一つは、外国での国際学会における研究発表に参加すること考慮に入れると外国出張のために使用する額が大きくなることがあげられる。二つ目は、成果報告書の作成と編集に関わる費用が嵩むことも予想される。最後に、次年度において、データ収集の補足を兼ね。地方都市での現地調査をより綿密に進めていく必要性から、調査の対象となる地域への出張が見込まれる。これら3つの主な理由から次年度使用額が生じている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は本研究の最終年度にあたる。従って、主に次ぎの3点を中心とした経費の使用を企画したい。第1点目は、本研究の調査結果と課題を整理することをはじめ、本報告を他国へ発信するためにも国際学会(香港)へ参加し、公示する計画である。よって外国出張にかかる費用を考えると学会参加費を含む旅費が必要となる。第2点目は、本研究の総まとめとして成果報告書の作成を計画している。この報告書を作成する際に、校正から印刷までかかる諸経費として使用する計画である。第3点目は、各地域(広島県、京都府、三重県、東京都、そして埼玉県)での現地聴き取り調査を含むワークショップなどへの参加による参加型視察も進行中であるため、聴き取り調査など本研究の調査に携わってくださる参加者に対する謝金が生じた場合の経費としての使用をも計画に入れる。 以上が、最終年度の本研究の使用計画である。
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