2014 Fiscal Year Research-status Report
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26370747
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
石田 卓生 愛知大学, 愛知大学東亜同文書院大学記念センター, 研究員 (50727873)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 華語萃編 / 華語キ歩 / 華語萃編鈔 / 華語月刊 / 高橋正二 / 鈴木択郎 / 康友 / 日清貿易研究所 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戦前、上海にあった日本の高等教育機関東亜同文書院(以下、同文書院)の中国語教育について、教材などの文献資料の分析からその活動の実態や変遷を具体的に明らかにしようとするものである。 平成26年度は当初実施計画通り中国語教材『華語キ歩』『華語萃編』を統計処理するための全文電子化作業を主にすすめた。『華語キ歩』については同文書院使用の2種の版本だけでなく、先行する上海の日清貿易研究所使用本についても電子化した。『華語萃編』については二ー四集の版本収集整理をすすめつつ、1920年刊行本、1925年刊行本、1936年刊行本の初集原本を発見した。これらと確認済み版本とあわせて統計処理を行い、6種の版本の相似乃至相違点を明らかにしうるデータを採った。さらに戦後愛知大学で使用した『華語萃編』の収集をすすめ、開校当時からの関係者への調査から上級用の『華語萃編鈔』や同文書院が刊行した中国語教育研究雑誌『華語月刊』掲載論文の教員の筆名(例:鈴木択郎と康友)を確認するなど次年度以降の研究活動につながる成果をえた。 学外調査では、当初計画の国会図書館、東京大学、北京国家図書館から九州大学、久留米大学へと変更した。これは『華語萃編』の編者真島次郎の教師であった高橋正二が後に九州大学の中国語教員となったと伝えられているものの実証されていなかったため、その確認並びに同文書院退職後の教育活動を確認することと、彼の出身地久留米で戦前からある久留米大学の図書館に『華語萃編』が収蔵されており、これがどのような本であるのか確認することの二つが当初計画よりも優先されると考えたからである。九州大大学大学文書館での調査では高橋について新たな経歴を確認する成果をえた。久留米大学では使用者の書き込みが残る『華語萃編初集』『華語萃編二集』を実見し、初集は原本未見であった1936年刊行本であることを確認する成果をえた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東亜同文書院(以下、同文書院)並びに前身校日清貿易研究所が使用した中国語教科書『華語キ歩』『華語萃編初集』について以下の全文電子化を完成した。『華語キ歩』は日清貿易商会蔵版下編(1891年)、柏原文太郎編輯版(1901年)、御幡雅文著文求堂書店刊行版(1903年)、『華語萃編初集』は1916年7月〜1920年3月版、1925年4月〜1928年3月版、1930年4月〜1935年4月版、1936年9月〜1940年版、1942年7月版、1943年6月版である。『華語萃編』は今回発見した1920年刊行本、1925年刊行本、1936年刊行本も加えて語彙や文章並びに統計処理による比較分析を行い、目下成果を発表するための論文作成に入っている。 これら戦前の『華語萃編』の分析と並行して愛知大学で改編使用された戦後の謄写本『華語萃編』について以下の版本収集整理をすすめた。それは1953年6月印刷の学生部委員会寄贈の東海プリント社版、1953年に印刷されたと考えられる鈴木択郎寄贈の東海プリント社版(紐綴じ)、印刷時期不明の鈴木択郎寄贈の版、1959年に印刷されたと考える内山雅夫寄贈の簡体字版、1960年に印刷されたと考えられる簡体字版、さらに上級者用の印刷時期不明の『華語萃編鈔』である。 また、同文書院の教育活動を具体的に捉えるために、同文書院出身で戦前は建国大学教授、戦後は亜細亜大学教授を務めた中山優の資料を入手、学内の様子、卒業後の中国関係資料を整理し「中山優写真資料について」(『同文書院記念報』23号、2015年3月)にまとめた。彼の中国での活動を示す資料は、同文書院での中国語教育の具体的な成果の一つとして評価される。 以上のように平成26年度当初実施計画通り、本研究は同文書院内教材を整理すると同時に『華語萃編初集』諸版本を分析する段階に到達しており、研究活動を順調に進展させている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度における研究活動で東亜同文書院の『華語萃編初集』の従来未見であるいくつかの本を確認した上で語彙、文章の比較だけでなく統計的な比較分析を行うことによって6種の版本の変遷を具体的に示す結果をえることができた。まず、この研究成果を論文などにより発表したい。 この成果をふまえて今後は、先行する中国語教材『華語キ歩』の諸版本間を比較分析することによって陸軍派遣での北京留学経験があり、陸軍、長崎商業学校、日清貿易研究所教員をへて同文書院でも教鞭を執った著者御幡雅文の教育の特徴や目的を明らかにする。さらに『華語キ歩』諸版本と『華語萃編初集』諸版本を合わせた比較分析を行うことによって、同文書院の中国語教育を開校から閉校まで通時的に俯瞰することを可能とし、この学校の中国語教育の特徴、目的やその変化を明らかにする。こうした初級用中国教育だけでなく『華語萃編二−四集』といった上級用教材、学内刊行の中国語教育研究雑誌『華語月刊』掲載のより語学的な専門論文、戦後の愛知大学使用版『華語萃編』も分析することによって同文書院中国教育の実態を全面的に明らかにしたい。 以上は同文書院内部を対象とした通時的な中国語教育の分析であるが、これに加えて同文書院以外の中国語教育の場面で使用されていた教材と学内教材を比較するという共時的な視点での考察もすすめていく。これによって開校当時、独自教材の作成時、教材の大幅な改訂時といった同文書院の中国語教育に変化が起きたターニングポイントにおけるこの学校の独自性あるいは学外の中国語教育との共通性を明らかにし、日本の中国語教育史の中での位置づけを検討する。
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Causes of Carryover |
本年度の活動において次年度使用額が生じたのは、研究環境の整備、本年度入手した資料の整理調査を優先し研究活動をすすめたことにより、当初予定していた在外資料調査計画を変更したためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度実施予定であった北京国家図書館での資料調査活動については次年度以降の当初計画とあわせて日程を調整し、研究計画全体としては予定の通りにこれを実施するものである。
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