2014 Fiscal Year Research-status Report
近代中国における「科学」の構造――孫文をめぐる知的ネットワークの解析
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26370758
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
武上 真理子 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (70636795)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 孫文 / 近代科学史 / ポピュラー・サイエンス / 異文化交流史 / 国際情報交換、中国 / 国際情報交換、台湾 / 国際情報交換、アメリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、平成26年2月に出版した著書『科学の人・孫文』を題材に、孫文研究の国際学会(上海)で研究発表したほか、科学史関連の研究会でも研究発表を行い、同著で論じたポピュラー・サイエンスや「広義の科学」に関しての議論を深めることに努めた。特に西洋を中心とするポピュラー・サイエンス史研究者と、東アジアにおける進化論や工学の受容についての意見を交換できたことが大きな成果である。 また、研究対象とする孫文の「科学」の範囲を地学(地質学)に拡大し、孫文が作成した『支那現勢地図』に関する調査を開始、その成果の一部を、第4回山口一郎記念賞受賞記念講演で発表した。さらに孫文に先立つ時代の中国における地質学導入(翻訳)史に関する論文を発表し、科学史研究者から多くの反響を得た。これによって、孫文個人の思想史研究にとどまらない、より広い空間と長い時間軸で近代中国における「科学」の構造を解明する視座を得たと考える。本年度に執筆した中国地質学の誕生史を考察する論文は、平成27年度に公刊予定であるが、今後は1920年代にまで考察の対象を広げ、孫文の『実業計画』における地質学との関連を明らかにしてゆく方針である。 資料収集では、台湾近代史研究所において、清末から民国初期の中国地質調査に関する資料を多数入手できた。これらの資料を、これまでに収集した日、中の資料および今後収集予定の米、欧の資料と有機的に関連付けることが平成27年度以降の課題となる。引き続きインターネットを有効に活用しながら、効率的な資料収集を図る。 インターネット上の情報発信に関しては、2016年の孫文生誕150周年に向けたHP開設準備作業を優先したため、研究者個人の情報発信には大きな進捗がなかった。次年度以降の継続課題としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「科学」を鍵概念として孫文思想の成り立ちを解明することを目的とする本研究は、孫文研究における新領域の開拓を目指すものである。本年度は、このような研究者の関心や問題意識をより多くの中国研究者、科学史研究者との間に共有することを第一の目標として学会発表や論文公刊を行い、情報発信と相互交流の面で大きな成果を得ることができた。 資料収集に関しては、台湾における調査で、中国語と英語による史料を多数入手できたほか、近代史研究所や国史館での利用者登録を行ったことにより、両機関が公開しているデータベースに日本国内からアクセスすることが容易になった。 これらを総括すれば、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は孫文をめぐる知的ネットワークの姿を具体的に解明する段階にまでは至らなかったが、日本、中国、台湾、イギリスの研究者らと情報交換を行う中から、今後は中国地学(地質学)の創始者と目される人々を分析対象とする方針をほぼ確定できた。この方針に即して、資料収集の対象をさらに絞り、分析を精緻化することが次年度以降の課題となる。 またこれまで日本語と中国語を中心に行ってきた論文の執筆を英語でも行い、論文発表の範囲拡大に努めたい。孫文生誕150周年記念シンポジウムの準備と連動させながら、英語圏の研究者との相互交流を図る。 さらに、当面の研究対象とする「科学」の範囲を地学(地質学)としたことに伴い、20世紀初頭の汎太平洋地域を舞台とする地質学の国際化を視野に入れる必要が生じた。そこで今後の資料収集では、当初計画していたアメリカに加えてオーストラリアでの調査も検討する。
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Remarks |
研究者が所属する京都大学人文科学研究所附属現代中国研究センターのHPは、研究者が管理し、センター所属メンバーの研究成果の発信を行っている。
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