2015 Fiscal Year Research-status Report
近代中国における「科学」の構造――孫文をめぐる知的ネットワークの解析
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26370758
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
武上 真理子 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (70636795)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 孫文 / 近代中国地図史 / 近代中国地理学史 / 近代中国地質学史 / 汎太平洋学術会議 / 国際情報交換、台湾 / 国際情報交換、中国 / 異文化交流史 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、中国大陸や日本に1年先駆け、台湾(台北)にて孫文生誕150周年の国際会議が開催されたため、それに向けた論文の執筆と会議での学術交流が活動の中心となった。会議では「孫文と地理学」をテーマに掲げ、日本に残された貴重な史料である孫文編『支那現勢地図』を海外の研究者に紹介した。この史料を手掛かりに、孫文の「科学」の構造を考えるうえでは、欧米諸国に限らず日本における「科学」の社会的拡大と運用のありようにも着目すべきことを提起したことが大きな反響を呼んだ。本報告論文は平成28年5月に台湾から公刊されるほか、さらに内容を拡充した日本語版論文も7月に刊行される予定である(すでに受理済)。 さらに、孫文が生きた時代の「科学」の構造をより多角的に研究するため、20世紀初頭の中国の地質学者たちの活動に着目する研究を進めた。すなわち孫文の「科学」の継承および発展について考察する研究である。ここでは、1926年に東京で開催された汎太平洋学術会議を「太平洋の時代」における日中学術交流の場ととらえ、中国地質学会や中国科学社関連の史料と日本側の主要人物となった山崎直方や新城新蔵らが残した史料の収集と分析に努めた。このうち京都大学が所蔵する新城新蔵文庫の中国関連資料の発見は大きな成果であり、2015年8月に開催したワークショップで報告を行った。本ワークショップの開催により、宇宙物理学史研究者と交流する道が拓かれた。 資料収集は、昨年度に引き続き台湾の近代史研究所で行ったほか、東京大学の地質学教室や日本学術協会、東洋文庫などが所蔵する文献、地図類の調査と収集を行った。これらにより、中国や日本における中国地図の作成、地質学調査の実態を明らかにするための材料を得たが、これらを同時代の欧米諸国が中国で行った活動内容を記した史料と照らし合わせ、総合的な分析を進めることが今後の課題として残されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は孫文の「科学」の範囲を地理学に拡大し、国際学会での交流を通じて、中国大陸、台湾、欧米の孫文研究者に対して、具体的な資料(地図)を提示しながら「孫文と科学」をテーマとする研究を発表できたことが最大の成果である。このことにより、「科学」を鍵概念として孫文研究の新領域開拓を目指す本研究は内外の研究者からの認知度が高まり、大きく前進したといえる。 また、地質学、宇宙物理学、生物学など、様々な領域の科学史研究者との学術交流が深められたことも本年度の成果の一つである。孫文の「科学」が多領域を横断する「広義の科学」とみなす本研究を進め、発表するための環境が整いつつある。 資料調査、収集に関しても、上述の人的ネットワークを活用して、東大地質学教室や京大宇宙物理学教室で貴重な一次資料を収集することができた。 したがって本研究は、研究発表及び資料収集の両面から見て、当初の計画どおり、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は本研究の最終年度に当たるため、これまでの研究を総括してゆくことが課題となる。とくに孫文自身の「科学」思想に関する研究と、彼と同時代あるいは彼より後の時代の科学者たちの思想や行動に関する研究はこれまで直接に関連付けずに進めてきたが、これらを有機的に結び付け、近代中国の「科学」をめぐる大きな人的・知的ネットワーク像を提起する研究にまとめてゆくことが本年度の課題である。 研究発信の方法は、学会での発表と論文執筆が中心になるが、平成27年度に英語論文を執筆した実績を踏まえ、より多角的な成果発信を心掛けたい。具体的には拙著『科学の人・孫文』の中国語版を出版し、より広範な研究者と問題意識を共有することを目指す。このことによって中国近代史研究の世界に埋没するのではなく、科学史研究者との学際的交流を常に意識しながら、学会発表と論文執筆を進めたい。 資料の収集はこれまでの学術交流を通じて得たネットワークを活用し、中国、台湾、米国(ハワイを含む)、英国での情報収集に努める。
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