2014 Fiscal Year Research-status Report
19世紀英領植民地世界における「家族の標準化」とその限界
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26370759
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
中沢 葉子(並河葉子) 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (10295743)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 家族 / 女性 / 奴隷 / 宣教師 / 西インド |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は西インドの奴隷制ブランテーションやシエラレオネにおける「家族」構築に関連する先行研究の把握に努めた。 また、その一環として、反奴隷制運動の言説なかで「家族」がどのように扱われているのかについてトマス・クラークソンやジェイムズ・スティーヴンの著作を中心に調査した。この成果の一部は、口頭発表として以下の学会で研究報告を行っている。「反奴隷制運動のネットワークとメディア戦略」、『大西洋奴隷貿易史研究の新地平―データベース、ネットワーク、アボリッションー』社会経済史学会近畿部会 2014年度夏季シンポジウム、大阪市立大学 文化交流センター、2014年8月22日。 さらに当時の反奴隷制運動のなかで、奴隷人口の維持のために奴隷の女性たちの出産および育児について関心が高まりを見せていく中、奴隷たちの日常生活全般にどのような変化が見られたのかについて先行研究を調査した。この点については、2014年度に開催されたシンポジウムにあわせて来日したカナダ、マニトバ大学のアデル・ペリー教授と最新の研究動向や研究の方向性について討論したことを踏まえて、今年度も引き続き考察を進めていく予定である。 2014年度末にロンドンのBritish Libraryにて西インドの奴隷制プランテーションにおける家族関係に関連する文献、シエラレオネ地域における同様の資料および両地域で活動した女性宣教師たちを派遣した団体についての記録などを集中的に調査収集したので、これらの文献について今年度は前年度収集した資料や先行研究の動向を踏まえて特に西インド関連の論点整理を行い、中間報告として論文を執筆する予定である。 また、『イギリス宗教史』の翻訳を進め、イギリス本国のみならずイギリス領植民地世界の宗教的状況とその歴史的背景について日本に紹介する機会を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度に行う予定であった女性宣教師関連の資料収集および分析を2014年度から着手している一方で2014年度に行う予定であった東インド関連の資料収集および分析の一部は2015年度夏にロンドン大学のShihan教授の来日にあわせて集中的に行う予定であるなど、一部予定した手順との変更はあるものの、おおむね順調に推移している。 西インドの奴隷の家族のあり方をめぐる18世紀末から19世紀初頭のイギリス本国における言説についての先行研究の把握は昨年度から進めており、先行研究に関連して2015年3月に入手したばかりの資料も多いが、それについては今年度分析を進めていく。 国内の研究者のみならずロンドン大学のShihan教授、カナダ、マニトバ大学のアデル・ペリー教授など海外の研究者ともメールのみならず直接会ってディスカッションする機会を確保できており、研究動向などについて適切な助言を受けることができる環境にある。 『イギリス宗教史』(法政大学出版会、2014)の翻訳を刊行できたことで、英領植民地世界や19世紀の宣教師の活動状況などについて日本語で紹介する機会を得られたことも本研究の推進に大きく貢献している。また、ジェンダーや植民地について多く扱ったフィリッパ・レヴァインの『イギリス帝国史』についても翻訳作業を進めており、本研究課題の研究の一環として進めてきた研究成果を日本語で社会的に還元する機会を得られる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
西インドにおける奴隷制プランテーションでどのような家族が構築されていくのか、とくに奴隷制廃止前後の変化に注目して検証する作業を続ける。 今年度の作業の中心は、前年度に収集した資料をもとに西インドにおける奴隷制プランテーションにおける家族戦略が1820年代前後にどのように変化したのかを、イギリスにおける反奴隷制運動の言説や奴隷制プランテーション所有者の対応、また、西アフリカシエラレオネ植民地の状況の変化などとあわせて検証することである。 比較検証の対象としてスリランカにおけるアフリカ系移民コミュニティで家族がどのようなパターンを持ち、出身地域および移民先の主要なパターンとどのような違いがあるのか、さらに、彼らのコミュニティの家族パターンがどのような理由で生まれているのかなどについては、7月に来日するロンドン大学のShihan教授から映像も含めた最新の研究成果の提供を受けながら進めていく予定である。 年度後半には、東洋女性教育協会関連資料について、バーミンガム大学など、未調査、未収集の文献について閲覧、収集するためにイギリスにおける現地調査を予定している。 2014年度中に収集済みの資料と今年度の調査結果を踏まえて、女性宣教師が西インドの奴隷制プランテーションにおいて女性たちや子どもたちを対象にどのような活動を行ったのか検証し、当時の西インドで実践された活動のなかからどのような家族規範が析出できるのか考察する。
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Causes of Carryover |
2014年6月末から7月初頭に予定していたアメリカ、イエール大学への学会出席および資料調査を中止したためにその金額が次年度分となっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度はイギリスでの文献調査を予定しており、その調査のための資金に充当する予定である。 また、イギリスより来日するシーハン教授の招聘にも支出予定である。
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