2016 Fiscal Year Research-status Report
19世紀英領植民地世界における「家族の標準化」とその限界
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26370759
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
中沢 葉子 (並河葉子) 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (10295743)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 反奴隷制運動 / 家族 / 西インド / シエラレオネ / 女性 / 宣教師 |
Outline of Annual Research Achievements |
・今年度購入した資料、Empire onlineやイギリスおよび西インド大学図書館から入手した資料を使い、西インドおよびシエラ・レオネにおける反奴隷制運動期の奴隷の家族、とりわけ女性と子どもの奴隷たちの生活実態についての分析を進めた。 ・昨年度、2月に19世紀後半から20世紀初頭におけるイギリスを中心とした女性たちの社会改革運動のイギリスを越えた広がりについて、女子教育ネットワークに注目した国際セミナーについて、女子宣教師が果たした役割、とりわけ家族規範についての考え方のイギリス内外への普及について、整理し、『女性とジェンダーの歴史』に寄稿した(印刷中)。 ・イギリスにおける奴隷貿易の展開と反奴隷制運動が政治運動として展開するなかで新たに形成されてきた道徳規範や価値規範をイギリス内外に広く普及させようとした人びとの活動がイギリス帝国の形成にどのような意味を持っていたのかを検討した。 ・上記3点は、いずれも、イギリスが新しい「帝国」を形成するうえで、このような動きが何を意味していたのかについて、西インド、アジア、シエラレオネにおいて宣教師たちが現地で生活する人びとにどのように働きかけていたのかについて把握しようとするものである。これは、イギリスのソーシャル・リフォーマーたちにとって「普遍的」とされていた価値規範を世界化する試みの意義を問うという、本研究が検証しようとする試みの一環である。これにより、それぞれがイギリスという国、あるいはイギリス帝国にどのような意味を持っていたのかを考えながら、「近代性」について再検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・西インドにおける新しい家族規範の普及の試みについては、前年度の成果をもとにさらに検討を加えた。また、比較するためにシエラ・レオネ植民地の状況についての分析を進めるための資料収集を行い、分析に着手している。 ・イギリス的な家族規範の世界化に大きな影響を及ぼした女性宣教師たちの活動については女性教師のネットワークとの比較について、前年度のセミナーの成果をもとに、その意義について、研究を進展させることができた。 ・イギリス本国における女性たちの家族観について、ミドル・クラスの側からワーキング・クラスへの働きかけの実態をアジア世界や西インド、シエラレオネの奴隷制社会のそれと比較するためにイギリスの実態について分析を進めているエセックス大学のパメラ・コックス氏、名古屋市立大学の奥田伸子氏などと意見交換し、この点について平成29年度初頭にセミナーを開催してその意義について広く研究者と検討する機会を持つと同時に、これまでの研究成果を還元する準備を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
・研究の最終年度にあたるため、これまでの研究成果をまとめることに注力する。 ・反奴隷制運動期にイギリス本国で形成された新しい家族規範がどのようなものであったかを具体的に明らかにする。 ・反奴隷制運動を受けて、西インド社会において奴隷たちの家族のあり方がどのように変化したのかについては、奴隷たちの結婚問題に注目した成果をすでに公表しているが、奴隷解放後まで分析の時期を延ばすこと、シエラレオネ社会との対比を行うことで、イギリス領世界における新しい家族規範の普及と限界の問題について更なる分析を進める。 ・イギリス本国の新しい家族規範を反奴隷制運動にかかわったアボリショニストや、彼らとは異なる立場にいた人びとがどのように世界化しようとしたのかについて、とくに女性たちの世代を超えたネットワークに注目しながら、アボリショニストの後継世代にあたる女性たちの活動に注目しながら分析を進める。 ・ここで得られた成果については、秋に予定している国際セミナーで一部報告し、広く研究者の間に還元する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度はロンドン大学のシーハン・デ・シルバ氏との研究打ち合わせなど、海外研究者との打ち合わせを渡航して行う、あるいは日本に招聘した際に行うのではなく、メール等で行ったため、旅費が当初予定を下回ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の4月15日にエセックス大学のパメラ・コックス氏を、また10月28日にはケンブリッジ大学のルーシー・ディラップ氏を招いて、申請研究に関連する国際セミナーを開催予定のため、その費用として使用する予定である。
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