2014 Fiscal Year Research-status Report
日本古代内陸地域における駅制運用に関する学際的研究
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26370764
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
大隅 清陽 山梨大学, 総合研究部, 教授 (80252378)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 古代交通 / 駅制 / 地域社会 / 廐牧令 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である平成26年度には、研究の基礎として、甲斐における古代交通の概要と特質について考察するとともに、古代駅制の基盤である日本の律令制度の歴史的な性格を検討することを計画し、共著書2点、学会・研究会報告5点の成果を得た。 報告「古代官道と甲斐国府」では、律令制下の駅路である東海道「甲斐路」=御坂路の成立過程を論じつつ、御坂路は、駅路として国府や国分寺など甲斐国の中心部に到るとともに、甲府盆地北部を経て東山道の信濃方面に接続するのに対し、若彦路は八代郡家やその附属寺院などと東海道を結ぶ伝路的な性格を持つことなどを指摘した。 報告「文献から見た甲斐の古墳時代」では、上記の見通しを、記紀におけるヤマトタケル酒折宮伝承の分析を通して裏付け、また報告「文献にみる『甲斐黒駒』とその歴史的背景」では、『日本書紀』や聖徳太子関係文献に見える甲斐黒駒伝承が成立する背景を、甲斐の地域交通の観点からも考察した。 更に、次年度以降における日唐駅制比較の前提として、第59回国際東方学者会議SymposiumⅣ『律令制的人民支配の比較研究』では、力役と租税制度に関する報告についてコメントしたほか、共著書『歴史の「常識」を疑う』では、北宋天聖令発見後における日唐律令制比較の問題点を整理し、『岩波講座日本歴史』での論文「律令官僚制と天皇」では、官僚制を素材に、8世紀を中心とする日唐の国制全般の特質についても論じた。 海外調査としては、8月に中国山西省西部において、唐宋時代を中心とする寺院、廟、官衙、監獄、県城、石窟等、日唐律令制比較に資する史跡・文化財の踏査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定の、古代甲斐国を中心とする内陸交通、とりわけ駅制の運用の実態について、主として地域史的な観点から検討することについては、上記の研究成果のほか、研究代表者が山梨県内の考古学研究者と主催している古代甲斐国官衙研究会の研究例会において、北巨摩郡北杜市の桑原南遺跡が古代の関である可能性、古代御坂路の路面と側溝を検出した富士河口湖町鯉ノ水遺跡とその周辺環境・景観の復元、御坂峠における祭祀遺物の検討、山梨県と静岡県にみられる「オオサカ」地名と国界・郡界との関係、甲斐御坂峠と信濃神坂峠の比較、甲斐国内出土の製塩土器から見られる地域交通の様相などの多方面から検討を進めている。 また、平成27年度以降に予定している日唐駅制の制度的な比較についても、地方官制を含む官僚制度や人民支配のあり方、北宋天聖令発見の方法論的な意義にを中心に、基礎的な作業を開始することができた。 以上の理由から、全体としては、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度については、甲斐国における駅制運営の実態についての地域史的な研究を進めるとともに、北宋天聖廐牧令による唐廐牧令の復原的研究を進め、関連史料の検討を通じて唐制への理解を深め、それを日本の養老令制・延喜式制と比較することによって、日本古代の駅制の特質を考察する。 特に注目したいのは、駅制を支えた地方財政のあり方と、駅に配置された駅馬の飼育体制の日本的なあり方である。駅の財政については、トルファン文書を用いた大津透や荒川正晴による唐制の研究も参考にしつつ、日唐比較の手法も用いて、日本の駅田や駅稲の独自性と本質を明らかにしたい。 駅馬の飼育については、日本の養老廐牧令16条は駅戸による飼養を定めるが、対応する唐廐牧令の不行唐21条はその規定を欠いている。また、日本の駅戸について定める養老廐牧令15条に対応する唐廐牧令の不行唐33条には駅戸の語が全く見えず、駅戸とは日本独自の制度である可能性が高い。これらの条文の比較を手がかりとして、駅戸および駅家集団(駅家郷)の編成の日本的な特質を明らかにするとともに、水田である駅田や、出挙稲である駅稲を財源とする日本の駅家の特質が、令制前のミヤケ制に遡る可能性についても検討したい。
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Causes of Carryover |
購入を検討した図書の刊行の遅れ等のため、若干の繰り越しが生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
購入を予定していた図書が刊行され次第、購入費に充てる予定である。その他については、現在のところ当初の計画通り研究が進んでいるため、研究計画調書の予定にそって使用したいと考えている。
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