2016 Fiscal Year Research-status Report
日本古代内陸地域における駅制運用に関する学際的研究
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26370764
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
大隅 清陽 山梨大学, 総合研究部, 教授 (80252378)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 古代交通 / 駅制 / 地域社会 / 廐牧令 |
Outline of Annual Research Achievements |
古代甲斐国研究会において、古代甲斐国おける駅路・駅制運用の実態に関する検討を進めた。特に7月30日のサマーセミナー2016in富士市「古代の甲斐と駿河の交流」においては、富士市域における甲斐型土器の分布状況も踏まえ、若彦路・中道往還を中心とする甲斐国と駿河国の交通路について考察した。また2月28日の第132回研究例会では、「古代甲斐国における出土文字資料研究の現状と課題」と題する報告を行い、山梨県内における文字資料の出土状況を、古代甲斐国の交通との関連も踏まえて検討したほか、渡邊稔氏(山中湖村立山中小学校)の報告「富士吉田市域の律令官道(駅路)について」をもとに、富士吉田市域における東海道甲斐路(御坂路)の具体的なルートを推定した。 著書または論文としては共著書1点を刊行したほか、論文1点の原稿を執筆し、後者は平成29年度中に公刊の予定である。 共著書『摂関期の国家と社会』所収の論考「摂関期内裏における玉座とその淵源」は、本研究課題の方法論的な基礎である日唐律令制比較について、天皇が用いる座具の変遷について、平安時代を含む長期的なスパンで捉えた。山梨学院による「甲斐の古道プロジェクト」の報告書『甲斐の古道(概要版)』に寄稿した論文「酒折宮伝承と甲斐の古道」では、記紀に見えるヤマトタケル酒折宮伝承を列島規模の遠距離交通体系に位置付けるという従来の主張を発展させ、伝承自体を交通史の文脈で解釈することを試みた。 また、研究課題全体のまとめとして、新たに単著書『古代甲斐国の交通と社会』を六一書房から刊行することを計画し、原稿の作成作業を進めた。同書は全体で三部構成であるが、平成28年度中には第二、三部の原稿作成をほぼ終えることが出来た。 海外調査としては、9月に台湾・台北の故宮博物院で寧波天一閣旧蔵の明鈔本『宋刑統』を実見し、『天聖令』鈔本における錯簡を検討するうえでの貴重な知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古代甲斐を中心とする内陸交通を、官道の交通や駅の運営実態から検討する作業については、平成27年度と同様に、古代甲斐国官衙研究会での活動を中心に成果を上げることができた。特に、甲斐国と駿河国の交流の実態を、甲斐型や駿東型土器の分布状況をもとに分析し、富士山の貞観噴火の影響を考察したこと、富士吉田市域における東海道甲斐路(御坂路)の具体的なルートの復原を試みたことは有益な成果と言える。 日唐律令制比較については、唐廐牧令の復元作業を進めたほか、職員令や儀制令にも関連規定がある座具を素材に、平安時代を含む長いスパンで検討するための方法論について検討した。また、台湾台北の故宮博物院の文献館において、かつては北宋天聖令鈔本と同じく中国寧波天一閣に所蔵されていた明鈔本『宋刑統』の原本調査を実施したが、これは、昨年度天一閣で行った『天聖令』鈔本の調査とあわせ、天下の孤本である『天聖令』の錯簡の性格などを考えるうえでも貴重な成果を得ることができた。 また、当初の計画にはなかった試みとして、本研究課題の成果を単著書『古代甲斐国の交通と社会』として刊行することとし、原稿作成の作業を開始したことは新たな実績である。同書は全体で三部から構成される予定であるが、平成28年度には第二、三部の原稿をほぼ作成することができた。 研究成果として新たに単著書を製作することとしたため、その部分の作業に遅れが生じ、補助事業期間の延長を平成29年度まで申請することとなったが、上記の内容から、上記の内容から、全体としては、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
延長期間である平成29年度には、作業の内容を研究成果報告でもある単著書『古代甲斐国の交通と社会』の製作にしぼり、研究期間中の成果も取り込みつつ、年度内に刊行することを目指す。 同書は第一部「古代甲斐国の成立と特色」、第二部「古代甲斐国の諸相」、第三部「古代甲斐国の地域と交通」の三部から成り、研究代表者が従来より進めてきた研究を、本研究課題の成果も加え、全面的に見直して単著書として刊行するものである。 古代甲斐国の地域史を、列島規模の交通という観点から位置付けるという問題意識は全体に一貫しているが、例えば第二部第三章では、従来議論の多い延喜式内社の比定を、信濃との遠距離交通路との関係から行うという従来にない視点を提示している。また第三部では、ヤマトタケル酒折宮伝承を素材に、令制前の遠距離交通体系の中に古代甲斐を位置付け、また律令制成立期の都留郡を素材に、七道制による官道や駅制の施行が、甲斐の地域社会に及ぼした影響を考察する。なかでも第三章「中部山岳地域における駅制と地域社会」は、本研究課題とテーマ的に最も重なる論考であるが、研究期間中の成果も出来るだけ取り込んで改稿し、研究代表者の現時点での見解を示すことを試みたい。 平成28年度中に第二、三部の下原稿は完成しており、年度前半の入稿、年度中の刊行を目指す。刊行の時点では、地元新聞の山梨日日新聞文化部などの協力も得て広報を行い、研究成果を一般市民にも周知してもらえるよう努力する予定である。
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Causes of Carryover |
研究成果を単著書として刊行することとしたが、入稿に遅れが生じたため、補助事業期間の延長を申請し、次年度中の刊行を目指すこととしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
版元として予定している六一書房の見積に基づき、必要な額を繰り越しているので、刊行の計画に従い年度内に執行する予定である。
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