2016 Fiscal Year Research-status Report
中世密教聖教にみる知の構造に関する基礎的研究―『覚禅鈔』を中心に―
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26370766
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
森 由紀恵 奈良女子大学, 古代学学術研究センター, 協力研究員 (70397842)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 中世史 / 宗教史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本中世成立期に編纂された真言密教の百科事典的文献『覚禅鈔』を文献資料として活用するため『大正新脩大蔵経』(以下『大正蔵』)所収『覚禅鈔』のデータベースを作成すること、作成したデータベースをもとに中世宗教界の知的・人的ネットワークの実態を明らかにし、中世的天皇像や国家像を支えた宗教界の知の構造について考察することにある。平成28年度は、昨年度より引き続き『大正蔵』所収『覚禅鈔』データベースの公開のための作業を継続する一方、他機関で公開されたデータベースとの連携などを考慮してデータベースの諸改編を行った(後述1)。また、公開の目途のたった年号データベースの分析により明らかになった『覚禅鈔』の特色について研究会で報告し、現在までの成果を論文として発表した(後述2)。 1、『大正蔵』所収『覚禅鈔』データベース作成に関する作業:平成27年度に年号索引・図像索引・書名索引について紙媒体の索引形式で公表することとしたため、平成28年度は年号索引・図像索引を紙媒体で公開するための2回目の校正作業を中心に行った。年号索引については、9桁の西暦データを入力した上で2回目の校正作業を行い、その過程で『大正蔵』所収『覚禅鈔』本文の誤字・脱字・錯簡が判明したものについては逐次調査・校訂を行った。また、図像索引については、平成28年6月に『覚禅鈔』が収録されている『大正新脩大蔵経図像部』の図像データベース(以後SAT大正蔵図像DB)が公開されたことをうけ、索引の項目を変更しつつ、2回目の校正作業を行った。 2、研究成果の発表:年号索引の公開の目途がたったことをうけ、年号データベースを活用しつつ『覚禅鈔』の特色を分析し、第22回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」において発表し、論文「『覚禅鈔』データベースの活用-年号・図像データベースを中心に-」として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、『覚禅鈔』を文献資料として活用するために『大正蔵』所収『覚禅鈔』のデータベース作成と、データベース活用による考察にある。 平成27年度にデータベースの公開方法を検討した結果、年号・図像・引用典籍のデータについて索引形式の紙媒体で公開することとした。平成28年度はこれらのデータベースすべてを完成させる予定であったが、データベースをより有益に活用するため、年号・図像データベースの改編を行いつつ、両データベースの2回目の校正をほぼ終了させた。 年号データベースについては、紙媒体の索引形式で公表することを決定したため、9桁の西暦データを特定・入力する作業を追加した結果、『大正蔵』所収『覚禅鈔』の誤字・脱字・錯簡が判明し、年号のないデータでも前後の文脈から年号が特定できるものが新たに見つかるなど、年号データの精度を上げることができた。また、9桁の西暦データをもとに、年号データを時間軸で分析することが可能になり、従来巻別に分析がすすめられる傾向のある『覚禅鈔』の全体像を年号データという切り口で分析し、その結果を公表することができた。 図像データベースについては、平成28年6月に『覚禅鈔』が収録されている『大正新脩大蔵経図像部』の図像データベース(以後SAT大正蔵図像DB)が公開されたため、SAT大正蔵図像DBと関連づけるための検討を開始した。これによって、紙媒体の索引形式による公開の限界であった図像データの参照方法の可能性が生まれた。 以上のように、若干の変更はあるものの、データベース作成・公開にむけての具体的作業は、データベースをより有益に活用するものに改編する方向で進めることができており、さらにデータベースを改編した結果、新しい切り口による『覚禅鈔』の分析も可能になったため、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、年号・図像データベースの完成と公開をめざす。年号データベースについては大半が完成しているが、特に勧修寺本を底本としない諸本を中心に未確定分のデータがあるため、調査・分析により西暦データを確定し、完成をめざす。図像データベースについては、前年度に引き続き、『大蔵経前解説大事典』所収「大蔵経と仏教美術」を参考にしながら尊法別の索引として完成させつつ、SAT大正蔵図像DBとの関連づけの検討をすすめる。その際、『大正蔵』が底本とする勧修寺本以外の諸本との異同も確認できる体裁にととのえ、紙媒体およびExcelデータでの公開双方の公開の可能性をふまえながら作業をすすめる。以上の年号・図像データベースとその考察については、年度末に報告書にまとめ公表する。 年号・図像データベースの精度を上げるため、平成28年度には引用典籍データベースに関する作業は保留した。平成29年度は、引用典籍データベースの部分的公開をめざし、その考察を通じて、本研究の目的の一つである中世宗教界の知的ネットワークの解明をめざし、研究会等で公表する。平成29年度に公開する引用典籍データベースは、平成27年度の研究成果をふまえて選択する。 以上により、完成させた『覚禅鈔』データベースにより、日本中世成立期の重要資料である『覚禅鈔』を歴史資料として活用するための便宜をはかり、中世的天皇像や国家像を支えた宗教界の知の構造の解明につなげ、本研究の目的の達成をめざす。
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Causes of Carryover |
本研究の遂行にあたっては、入力・校正などのデータベース作成作業に熟練した研究協力者の確保が不可欠であるが、研究代表者との日程調整の不具合で謝金が予定通り使用できなかったため。また、データベース作成の方針を変更したため、予定通り調査を行うことができず、データベース公開のための報告書の発行を平成29年度に変更したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
データベース作成・公開の迅速化をはかるための研究協力者への謝金、データベースの作成及び考察に関する調査や研究発表に関する旅費、データベース公開のための備品の購入・報告書の印刷代・発送費用に充当する。
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Research Products
(2 results)