2015 Fiscal Year Research-status Report
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26370770
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
水野 章二 滋賀県立大学, 人間文化学部, 教授 (40190649)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 中世史 / 災害 / 虫害 / 風害 / 屋敷林 / 里山 |
Outline of Annual Research Achievements |
六国史や災害関係史料集などから、風・水・旱・虫害といった農業災害の史料を抽出してデータベースを作成し、農業災害全体の出現状況を整理するとともに、風害と虫害を中心にその特質を検討した。8世紀後半から11世紀前半までは旱害(旱魃関係史料)の出現頻度が高いが、これはこの時期の気温の高さが大きく作用したものである。12世紀からは水害(洪水・霖雨関係史料)および風害(大風関係史料)が増加し、15世紀には多様な災害が激増する。虫害は平安期に一定程度みられるものの、中世を通じて頻度はそれほど高くはない。これは古代社会においては中国の蝗害対策の影響もあり、中央政府に情報を集約する制度が機能していたものの、中世では虫害に対する仏教的解釈や被害の相対的局地性により、よほどの虫害でなければ史料に登場しなくなるためと判断される。また大風は発生季節から台風によるものが多いが、中世後期には冬場の史料もまとまってみられるようになり、冬の季節風の影響が強まっていたと推測できる。 日本海岸の青森県五所川原市十三湊遺跡・石川県羽咋市寺家遺跡・金沢市普正寺遺跡・鳥取県湯梨浜町長瀬高浜遺跡・鳥取市身干山遺跡など、砂丘地に立地する遺跡発掘調査報告書を精査し、現地調査を実施するとともに、あわせて関連する文献史料の収集を進めた結果、中世後期における砂丘の発達と港湾・集落立地の変化などがあらためて確認できた。これは上述した冬の季節風の影響による飛砂の増大によるものである。 風害対策については、樹林(風防林)の果たす役割が大きい。樹木をともなう屋敷地・屋敷林では、樹林が風防以外にも、水防や防火などの役割を有していたが、このような災害対策としての屋敷林・里山の機能に関する史料を整理・分析して、著書にまとめた。また虫害に関しては、宗教的な虫害対策である虫送り行事の調査を、青森県や愛知県で実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中世社会では、風・水・旱・虫害は生産基盤に大打撃を与える日常的な農業災害として広く認識されていたが、虫害や風害については、その実態や発生の頻度・時期などの基礎的事実についてさえ、ほとんど研究がなかった。そのため、六国史やこれまで出版された災害史料集などから、農業災害の史料を抽出してデータベース化し、その全体像を把握したうえで、風害と虫害の検討を進めた。これによって古代・中世の風害・虫害研究の基礎を確立することが可能となった。 風・水・旱・虫害のなかでは、虫害史料は圧倒的に少なく、「風水旱虫」と総称されることもあるが、「風水旱」とのみ表現されることも多いのは、やはりその頻度による。虫害は人力での駆除は不可能で、その発生は神の怒り・祟りと理解された。古代社会では国家が災異を吸収するシステムが存在していたが、中世では仏教的解釈が強まり、後には虫霊を村境に送り出す虫送り行事が全国に波及していく。 風害は台風による場合が多く、洪水と連動して大きな被害を招いた。平安末期に発生した養和の飢饉は旱魃がベースにあったが、そこに大風が連鎖し、大飢饉となったものである。また季節風や局地風の影響については、全くといってよいほど研究がなかったが、地質学が指摘してきた中世後期頃における砂丘の発達という問題を、日本海岸の砂丘関連遺跡などの調査を通じて、あらためて災害史研究のなかに位置づけることができた。屋敷林や里山の問題も災害史という視点から検討を進め、遺跡や現景観における建物の方向や樹林の配置から、季節風・局地風の影響を分析する手がかりを得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
自治体史の災害史料・記録などから、古代・中世の風・水・旱・虫害史料の抽出を継続して進める。虫害・風害を中心に具体的事例の分析を行うとともに、説話や和歌などの文学作品などからも、虫や風の認識・信仰に関する記述を収集する。 虫害に関しては、あわせて昆虫遺体を含む考古学の文献・報告書を収集するとともに、中・近世の代表的な虫害対策である虫送り行事の現地調査や史料収集を継続し、その成立過程を検討する。その際、虫・虫霊に関する認識や宗教意識の解明が重要になると思われる。 風害の史料収集・分析については、特に日本海岸の砂丘地帯に注目する。石川県寺家遺跡・金沢市普正寺遺跡、鳥取県長瀬高浜遺跡などの検討や現地調査・関連史料収集を継続し、砂丘が遺跡を埋没させていく過程と季節風の影響との関係を検討し、民衆の対応を文献史料・考古遺跡などから明らかにする。同じく日本海岸の港湾立地に大きな影響を与えた潟湖の変動についても、石川県河北潟などを対象に、史料の収集・分析を進める。 季節風・局地風は海岸部に限らず、内陸部でも大きな影響を与えている。建築・土木技術の未熟な前近代社会においては、集落立地の選択や防風林・防風垣の設置、風の神信仰などの、さまざまな対応が推測できる。砺波風と呼ばれる局地風で知られ、発達した屋敷林を展開させた砺波散村などを対象に、遺跡や現景観に与えた風の影響を確認するとともに、風に関する史料収集を通史的に行う。また滋賀県下でも、中世荘園・村落の立地環境の調査を実施し、中世における開発と災害対応について総合的に検討を進めたい。
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Causes of Carryover |
27年度は現地調査の人件費が予想以上に少なくなった。科研費による主要調査対象地は、日本海岸の青森県五所川原市十三湊遺跡・金沢市普正寺遺跡・鳥取県湯梨浜町長瀬高浜遺跡・鳥取市身干山遺跡などで、砂丘地に立地する遺跡発掘調査に関する報告書類や関連する自治体史・文献史料の収集を進めるとともに、現地調査を実施したが、状況の把握が主な目的となったため、申請者個人による調査が中心であった。その結果、調査補助者の人件費や消耗品費をさほど使用する必要がなくなったため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は日本海岸とともに、滋賀県下における集落立地と開発、災害対応などの歴史地理学的調査にも力点を置く予定である。そのため、地名や水利・農業慣行、棚田・里山などに関する現地調査に同行する調査補助者の人件費や消耗品費が、27年度以上に必要になる。またこれまでの研究成果の整理・入力、作図などに関わる人件費も多く必要になる。
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Research Products
(2 results)